自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2050冊目】メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』

 

フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)

フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)

 

 
ちゃんと読んだのは、実ははじめて。ホラーかサスペンス系のお話かと思っていたら、涙が出るほど哀しい物語だった。

生み出された人造人間が「怪物」とか「悪魔」とばかり呼ばれ、名前さえ与えられていないのが、そもそも哀れである。しかも、もともとは善良な本性をもっているのに、姿かたちの醜さで、自らを生み出したフランケンシュタインにも忌み嫌われる(醜形のために、親にさえ忌み嫌われる子供を思わせる)。それならせめて、同じ人造人間の仲間をつくってほしいと願うものの、それさえあっさり裏切られる。

自分が生み出したにも関わらず、責任を取って面倒を見るどころか、一方的な理屈で嫌悪するという人間の本性が容赦なく描かれる。その姿は身勝手きわまりないが、それゆえにかえって他人事とは思われない。自ら産んだ子供を虐待する親から、原子爆弾を生み出した科学者まで、わたしたちは多かれ少なかれ「フランケンシュタイン」なのかもしれないのだ(あ、ご存じかとは思いますが、フランケンシュタインというのは怪物ではなく、それを作り出した科学者の名前です)。

だから本書を読むと、フランケンシュタインの勝手な理屈に腹が立つ一方、怪物の悲哀に接してどこか疚しさを感じてしまうのだ。私たちの多くが、あくまで身勝手な「フランケンシュタイン」の側にいることが、読むほどに容赦なく突きつけられるからである。

この怪物が実はきわめて善良で人間味にあふれ、しかも高い知能と『若きウェルテルの悩み』や『プルターク英雄伝』『失楽園』(あ、渡辺淳一じゃなくてミルトンね)に感動する感性を持ち合わせているのも意外であった。読むほどにフランケンシュタインと怪物の「どっちのほうが人間らしいのか」と思わざるを得ない。人間ほど「非人間的」なヤツは、実は存在しないのかもしれない。そんなことを感じた一冊だった。