自治体職員の読書ノート

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【2034冊目】中沢新一『対称性人類学』

 

対称性人類学 カイエ・ソバージュ 5 (講談社選書メチエ)

対称性人類学 カイエ・ソバージュ 5 (講談社選書メチエ)

 

 
対称性」「非対称性」をキーワードに、神話や物語、贈与と純粋贈与、無意識と意識(理性)……つまりは世界そのものを再構成する一冊。

だが、そもそも対称性とは何かということが、最初のうちはわかりにくい。そのことは読むうちにだんだん見えてくるのだが、例えば物語のなかで、人間がヤギになったり熊になる(その逆もある)場合、両者は対称性のなかにあるといえる。狩猟者の伝説では、人が夢の中でなぜかヤギになり、「雌や子のヤギは仕留めないこと」「そのかわり雄のヤギを仕留めても罪悪感を覚えぬこと」を告げられる。このとき、狩猟者とヤギは同一不可分の存在となり、つまりは対称性があるということになる。

西洋のいわゆる科学的思考は「分ける」ことを主眼とする。そこではヤギはヤギ、人間は人間であって、人間だった自分が突然ヤギになったりすることはない。その逆が神話的思考であって、人が同時にヤギである、というようなことが起こる。ちなみにこの「思想」にもっとも近いのが、仏教、特に禅であるという(そういえば禅問答で、こんなのがある。「仏とは何か?」「庭先の柏の樹」)。

 

「分ける」働きは意識、特に理性の部分で行われるのに対して、対称性の精神においては、すべてがつながりあい、華厳経に示されているごとく、ひとつひとつの「部分」すべてに「全体」が映される重々帝網の世界観が支配する。こうした世界観は、神話や夢のものであって、さらには無意識にまでつながっていくのである。

本書は、以前途中まで読んでいた「カイエ・ソバージュ」の第5巻。第4巻までの話を踏まえつつ、「対称性」のもとで壮大な知の網目模様が展開する一冊だ。