自治体職員の読書ノート

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【2029冊目】ボフミル・フラバル『わたしは英国王に給仕した』

 

わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

 

 
こないだ読んで気になったフラバルの、代表作といわれる作品。語りの口調に酔わされる一冊だ。

ホテル「黄金の都プラハ」で働く給仕見習いが語り手だ。「何も見るな」「でも、ありとあらゆるものを見ろ」などと支配人に(耳を引っ張られながら)言われる下っ端である。だが、章を追うごとに立派なホテルに勤めるようになり、やがては自らホテルのオーナーとして百万長者になるが、やがて百万長者はすべて収容所に入れられることになる(このへんの理不尽さを肌感覚で描けるのが、共産主義下のチェコを生き抜いた作家ならでは)。

だがなんといっても、彼にとって生涯の誇りとなったのは、3つ目の勤務先となったホテル・パリでエチオピア皇帝の給仕を務めたこと(ちなみに英国王に給仕したのはその時の給仕長)。だから彼は誇らしげに語る。「なんといっても私は、エチオピア皇帝に給仕したことがあるのだから」

ひたすら続く語りは、突拍子もないイメージや展開が盛りだくさん。その濃密で時に幻想的な展開を楽しむのが本書の醍醐味だ。中には明らかに非現実的なファンタジーも混ざっているが、それも含めての「語り」なのである。決してお上品ではない、訳者もあとがきで書いているように「飲み屋で滔々とくだをまくといった庶民的な「語り」」であって、「ビアホール詩学」なのである。