自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2024冊目】大森彌『官のシステム』

 

官のシステム (行政学叢書)

官のシステム (行政学叢書)

 

 



タイトルからもわかるように、本書は「官」すなわち国家公務員・省庁のシステムを分析した一冊である。その対象範囲は組織や職層などの制度面から働き方などのソフト面の特質、さらには望ましい「官」のあり方にまで及ぶ。霞が関の「オモテ」から「ウラ」までを、システムという観点から明快に説明している。

地方公務員にも共通することだが、官のシステムの大きな特徴に「大部屋主義」がある。その背景にあるのは「初めに職員ありき」の姿勢である。すなわち、最初に必要とされる職務を確定してからそれを担う職員を集めるのではなく、職務自体は組織ごとに大まかに振り分け、その組織に複数の人員を配置した上で、その職務を組織に属する職員全員で分担する。これに対して欧米では、原則として個室を与え、職務ごとに人をあてがう方式をとっている。

欧米式では職務の範囲が明確だが、人員の配置などに際しては融通がききにくい。日本式は(アジア諸国はどっちなのだろうか)逆に、職員個人の職務の範囲はあいまいだが、その分柔軟な運用が可能であり、同じ課内でも課題を共有しやすい。また、人員削減の要求にも比較的応じやすいが、これは言い換えれば、そもそも組織にとって必要な人数が明示されていない、ということでもある。このあたりの状況は、地方自治体でも多かれ少なかれ似たようなものである。

一方で、われわれ自治体職員と大きく異なるのが「官」の仕事の内容である。自治体職員の多くがいわゆる「現場」で働いているのに対して、彼らの仕事の多くは、法令などの策定と、国会議員への対応である。特に悪名高い「質問待ち」は職員の膨大な残業につながり、年間およそ60億円が帰宅用のタクシー代に消えているという。

また、仕事に対するメンタリティも大きく異なるようである。国家公務員の場合、法律などの制度設計が仕事の大きなウェイトを占め、権限につながる法律や補助金が絡んでいる場合は特にそうなのだが、省庁間で「積極的な権限争い」が起きる。一方の地方公務員は、新たな仕事を抱えることを忌避することが多く「消極的な権限争い」が起きるという。

こうみると国家公務員のほうが真剣であるようにも感じられるが(実際多くの公務員は真剣であるはずだが)、問題はその真剣ぶりが、現場の状況を知らないままに発揮されてしまうということだ。著者はこんなふうに書いている。

「本省で法律を作った後、政令、省令、運用基準などを作成し、それを施行・伝達していったとき、どれくらのレベルのひとが読み、どのくらいの忙しさになり、どういう誤解が生まれうるか、といった現地・現場の人びとの心理の屈折に対する配慮はあまりしない。だから、意図どおりに動かないと、相手方が無能で頼りなく見えるのである」

さらに、現場への視点とともに、「国民の奉仕者」であるという視点もまた、欠けていることが多い。問題の淵源は省庁ごとの採用システムである。そのため「省」への忠誠心が第一となり、省益を第一に考える官僚たちによって国家全体にかかわる政策が立案されていく。この状態を著者は、日本は「合衆国」ならぬ「合省国」であると揶揄している。

そこで著者が提案するのが、省庁ごとではなく「日本国公務員」としてまとめて採用を行うという方式の導入である。ちなみに著者は、そもそも国家公務員という名称自体が詐称であるという。なぜなら「国」という表現はその中に地方自治体も含むはずなので、そこの公務員を中央政府のみが雇用するというのはおかしいからだ。だから国家公務員は「全国公務員」と改称してしかるべき、と著者は指摘する。なるほど、これは今まで気づかなかった。

本書は国家(全国?)公務員についての本であるが、読んでいると案外、自分を含む自治体職員のあり方についてもいろいろ考えさせられる。国であろうが地方であろうが、そもそも公務員という存在が「何のため」にいるのか、われわれは常日頃から自問自答すべきである。本書は、「官」のありようを鏡に、おのれを振り返る一冊となった。