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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2022冊目】吉野裕子『蛇』

 

蛇 (講談社学術文庫)

蛇 (講談社学術文庫)

 

 

樹木。山。鏡。酸漿。注連縄。案山子。鏡餅

一見、何の共通性もなさそうに見える。だが著者によれば、これらはすべて「蛇」の見立てなのである。樹木は蛇の形から。山や鏡餅はとぐろを巻いた蛇。鏡や酸漿は蛇の目。案山子は田を守る神であるが、蛇は穀物神であり、田を荒らす野ネズミを捕食するという面もある。

そもそも、蛇を意味する古語である「カカ」から、蔓性の植物が「カガ」「ガガ」と呼ばれた。さらに、中国から伝わった「鏡(キョウ)」は、蛇の目のように見えることから「カガ+目」⇒「カガミ」となった、と著者は自説を展開する。カガミの語源は「影見(カゲミ)」である、という通説など、ほとんど意にも介さない。

しかし、どうしてこんなに「蛇だらけ」なのだろうか。著者によれば、そもそも古代日本には蛇信仰が息づいていた。縄文時代には、男根の象徴としての形状に加え、強い毒や旺盛な生命力が蛇信仰に結びつき、弥生時代になると、脱皮という蛇の特性が永遠の生命のイメージにつながった。さらに蛇は山に住む「山の神」であり、先ほど書いたように、田を守る穀物神でもあった。

だからこそ日本神話では「ヤマタノオロチ」が出現し、その尾からは「草薙の剣」が取り出されるのだ。この「剣」もまた著者に言わせれば、蛇の尾そのものの明らかなメタファーということになる。さらに鏡が蛇の目≒頭部のシンボルなのだから、三種の神器のうち「鏡」と「剣」は、それぞれ蛇のアタマとシッポである、ということにもなってくるのだ。

こうなってくると、残り一つの「勾玉」はどうなのか、気になるところではあるが、著者は本書ではこのことには触れていない。ただ、気になるのは、蛇の「ペニス」のカタチが、勾玉になんとなく似ているんですよねえ……。ちなみに蛇のペニスは「2本セット」になっているらしい。さらにちなみに、蛇の交尾は26時間くらい続くこともあるそうである。その交尾の形状を模したとされているのが、二本の縄を縒り合わせた「注連縄」だ。

ここまでなんでもかんでも「蛇」に結び付けられると、本当かよ、と言いたくもなるが、膨大な例証から立ち上がってくる古代の蛇信仰のありようをみると、あながちこじつけとも言えなくなってくる。

そして、蛇信仰そのものは失われてしまったが、「蛇」というスコープでさまざまな物の形状や風習を読み解くことで、われわれはひょっとしたら、古代日本人の観念に近づくことができるかもしれないのである。そう考えると、なんだかワクワクしてくるではないか。大胆にして明快、蛇のイメージ一つで日本の見え方がガラリと変わる、ホンマモンの学問の「凄み」を感じる一冊であった。