自治体職員の読書ノート

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【2015冊目】『ユニバーサルデザインの教科書』

 

ユニバーサルデザインの教科書 第3版

ユニバーサルデザインの教科書 第3版

 

 
例えば、どこにでもあるような胃腸薬。だがそこには、膨大な量の工夫が詰まっている。注意書きの書き方や色遣い、箱の開け方、容器の持ちやすさ……。瓶のふたの開けやすさをどうデザインするか。形状は円形、それとも角形? 「開けにくさ」を実感するためには、手を石鹸で濡らしたり、軍手を二重にはめたり……。

そこまでやるか、と言われるかもしれないが、そこまでやるのがユニバーサルデザインだ。なぜなら、力の強い人も弱い人も、視力の良い人もあまり(あるいはまったく)見えない人も、右ききの人も左利きの人も、男性も女性も、若者も高齢者も、健常者も障害者も、つまりはさまざまな人が問題なく使えなければ、それはユニバーサルデザインとはいえないからだ。

ユニバーサルデザインは、日常の「違和感」を感じるところから始まる、という。だが本当は、違和感を感じ取れるだけの「センサー」を自分の内面に備えるところから始まる、というべきだろう。それによって、一見「ふつうの」「何の問題もない」と思えるモノやコトを新たな視点で捉え直し、見えない問題をあぶり出すことができる。それはまさしく、われわれの日常そのものの再点検であり、再構成なのだ。

例えば、自動販売機の上のほうのボタンは子どもや車椅子の利用者には届かない。そのことから、下の方にもボタンを配したデザインが生まれる。あるいは、電磁調理器(IH)には、火を使っているわけでもないのに、使用時は赤い照明が点くようになっている。加熱していることを忘れないよう配慮されているのである。ユニバーサルデザインは、人を排除しないデザインである、といわれるゆえんである。

ユニバーサルデザインを創始したロナルド・メイスは、建築家であり、大学で教鞭をとっており、そして障害当事者でもあった。その舞台が、人種問題をはじめとした差別問題に以前から直面してきたアメリカだったのも、偶然ではないだろう。さらにこれが広まった背景には、ADA(障害をもつアメリカ人法)の存在があった。障害のある人を想定した環境整備が求められる中、ユニバーサルデザインはひとつの大きな解決の道を示したのだ。

そしてユニバーサルデザインは、大量生産型の工業社会へのアンチテーゼにもなった。生産者主導でデザインが決められる時代から、作り手がユーザーの側にいる社会へ。お仕着せの大量生産品を黙って使う時代から、多様な特性と背景をもつユーザー自身が生産に関わる時代へ。

 

とはいえ、本当に「すべての」人にとって使いやすいデザインを生み出すことは、なかなかできることではない。その意味では、ユニバーサルデザインは常に未完成なのである。作り手やデザイナーにとっては、そこが大変でもあり、おもしろいところなのだろう。社会は常に、発見され、修正され、ユニバーサライズされるのを待っているのだ。われわれは手元の薬箱ひとつ、ドアノブひとつから、そこに関わることができるのである。