自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2003冊目】アラン・ヴェイユ『グラフィック・デザインの歴史』

 

グラフィック・デザインの歴史 (「知の再発見」双書)

グラフィック・デザインの歴史 (「知の再発見」双書)

 

 

ほぼ全ページにわたり、半分以上を図版が占めていて、パラパラ眺めているだけでも面白い。その時代を画期した、斬新で最前線の「デザイン」がずらりと並び、強烈なインパクトを放っている。さすがに古臭さは否めないが、それはむしろ、当時は最新だったデザインがのちに模倣され、デザインの「文法」として定着した、ということなのだろう。「どこかで見たことがある」のは、ここに載っているものこそが、現代の広告デザインの原点だからである。

広告は大量生産の時代にはじまった。行商人が注文を取り、ひとつひとつ受注生産していた時代から、機械化が進むことで、大量に生産し、輸送し、販売する時代へと変わった。それは「大衆」を主役とした消費社会の幕開けでもあった。

デザインそのものの歴史はもっと古いが、いわゆるグラフィック・デザインの時代は、こうした背景からスタートした。さらに、デザイン自体、1796年にリトグラフ(石版画)が発明され、大判の印刷物が簡単に作られるようになったことも大きい。

大衆に訴えかけ、商品についてのメッセージを伝えるために凝らされた工夫の数々は、まさに圧巻。極限まで無駄を削ぎ落した強烈なイラストレーション、タテヨコナナメに自在に流れるレイアウト、そして新たに生み出された何種類ものタイポグラフィ。グラフィック・デザインはその競演の舞台となった。アール・デコロシア・アヴァンギャルドバウハウス。当時の美術表現の最先端が、同時にグラフィック・デザインの現場ともなった。20世紀以降、写真技術やオフセット印刷技術の進展は、さらにデザインの可能性を広げた。この流れはデジタル技術の圧倒的な流れに連なるものだ。マッキントッシュの登場は、文字通りデザインの常識を変えた。

著者はフランスのグラフィック・アート研究家だが、日本にも時々目配りをしてくれている。グラフィック・アートの黎明期、つまり19世紀、アール・ヌーヴォーが日本の浮世絵から影響を受けていたこと(1867年の万国博覧会がきっかけだった)、20世紀後半から、亀倉雄策田中一光永井一正横尾忠則中村誠石岡瑛子など、個性的なデザイナーが多く登場したこと。特に見開きで取り上げられているサイトウ・マコトのフォトモンタージュは面白い。

それにしても、本書で出てくるデザイナーの名前をほとんど知らなかったのはショックだった。「芸術」絵画や彫刻に比べて、グラフィック・デザイナーの名前は、ごく一部を除いて、あまりにも一般に知られていないのではなかろうか。その「作品」は、美術館に足を運ばない人も含めて、圧倒的多数の人々の目に触れているはずなのに……。