自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1996冊目】ジョルジュ・ペレック『給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法』

 

給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法

給料をあげてもらうために上司に近づく技術と方法

 

 

これはとてもヘンな本である人を食ったとはまさにこのことであってなにしろこれはわたしが上司であるX氏に給料をあげてもらうよう交渉するまでの流れをフローチャートに落とし込んだ上でその分岐点をひとつひとつ総ざらいしてふたたび言葉に置き換えた一冊なのだたとえば上司が部屋にいる場合といない場合がありいない場合に秘書のヨランダ嬢と何を話すかまた上司の機嫌はどうか魚の骨がのどに刺さっていないか卵料理を食べて食当たりしていないかお嬢さんは麻疹にかかっていないか等々の珍妙な選択肢をひとつひとつなぞって話が進んだようでまたぐるりと戻りどこかで見た光景が延々と繰り返されそれは現代のオフィスやサラリーマンへの痛烈な皮肉でもありそもそも文学そのものへの挑戦にも思われだいたい108ページにわたり句読点が最後のひとつを除いて存在しないこんな文章がずらずら続くということ自体もうシュールで実験的で無茶苦茶なのだがそれでもこれが読みだすとめっぽう面白いのは強烈なウィットとユーモアが溢れんばかりにみなぎっているからだそれにしても同じことの繰り返しとも思える文章が実はひとつとして同じものはないということに私は解説を読むまで気づかなかった。