自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1993冊目】中沢彰吾『中高年ブラック派遣』

迷走中の読書ノートですが、いろいろ考えた結果、いったん原点回帰してみます。

一冊を読んで書く、というスタイルの弱点というか、悪しき部分にも気づいてはいるのですが、それはそれで、一冊の切り取り方によってどうにもでもなるような。

まあ、つまるところ、最初から続けているこのやり方が私にとってはベストなのでしょう。でも、そんなことにだって、変えてみないと気付かないのですよね。変化しないことを決めるにも、変化することが必要なのです。

とりあえず、ここんとこの結論としては、「問題は本ではなく、読む〈私〉のほうにある」ということなのですが、じゃあ本を読むときの〈私〉ってなんなのか、というと、実はそれこそが大問題なのですよね。なにしろ読書中の私とはまぎれもなく「読書自己」なのであって、私がすなわち本であって、本がすなわち私である、みたいな自即他、他即自的融合体なのですから。さらに言えば、その本の向こう側にだって無限の本が連なっていて、その背後には無限の世界が広がっているのだし、「私」のほうだってそれはおんなじことなのであって、読書とはつまりはそういうことなのです。

さてさて、それでは意味不明の前置きはこのへんにして、再開一冊目に参りましょうか。一冊目がこれかよ、という気もしますが、まあある意味では、この現代日本社会のどん詰まり感を、これほど端的にえぐり出した本も珍しい。この本を完全に「他人事」として笑える人は、いったい何人いるのでしょうか。ね? 本って「私」や「あなた」と、見事につながっているでしょう?

 

 

中高年ブラック派遣 人材派遣業界の闇 (講談社現代新書)

中高年ブラック派遣 人材派遣業界の闇 (講談社現代新書)

 

 

 

 

2015年現在、非正規労働者は2千万人以上。そのうち6割以上が40代以上の中高年者だという。その受け皿となっているのが派遣労働だ。本書は、そうした「中高年派遣」のすさまじい実態を告発する一冊である。

交通費不支給など当たり前。労働時間内でも、仕事が早く終わったらそこまでの給料しか払わない。一方、仕事より1時間早く集められても、ミーティングと称して残されても、そのぶんは無給である。抗議をしたら、吹きさらしの入り口に何もせず立っていろと言われる。事前の説明と仕事内容が全然違う。高度な専門技能が必要なはずの仕事を、何も知らず集められたおっちゃん、おばちゃんがやらされ、失敗すると罵倒される。私語は厳禁。少しでも異を唱えると「もうこなくていい」と言われ、その場で即刻クビ。

これを「当たり前じゃん」「現実ってそんなもの」と感じたら、あなたは相当ヤバい。こうした労働環境をなんとかしようと奮闘してきたのが、(遅くとも)産業革命期のイギリス以降の人類の歴史であったはずである。その成果が労働基準法などの労働法規だ。だが人材派遣会社も、現場の監督者も、法律など平然と無視である。派遣労働者の側も、自分を守ってくれるはずの法律のことを何も知らない。結果として、無視と無知の悲惨なコンビができあがり、日本の労働環境の最底辺が回っている。

自治体も他人事ではない。アウトソーシングの名のもとに業務を外部化し続けてきたという意味では、むしろ現在の惨状を生み出した共犯である。本書では横浜市の事例が詳細にわたって紹介されているが、二重マニュアルの話など、笑うに笑えない。

目先のコストダウンに飛びついたツケが、現代の日本社会の根っ子を腐らせている。消費の低迷も、先の見えない少子化も、本気で解決しようと思ったら、「派遣」の問題は避けて通れない。中高年者を時給900円で働かせている人材派遣会社の若手社員の年収は、3千万円を超えることもあるという。何かが決定的に狂っていると感じるのは、私だけではないと思うのだが。