【1991冊目】五木寛之『日本幻論 漂泊者のこころ』
五木寛之の講演・インタビュー録9編。行われた日は分からないが、初出をみると、「かくれ念仏の系譜」の平成4年が少しあとで、それ以外は昭和56年~62年くらいに活字化されている。
この頃、五木寛之は「休筆」している。昭和56年から龍谷大学で仏教史を学び、昭和59年に『風の王国』で復活しているのだ。本書はちょうどその充電期間中の思索と活動がまとめられていることになる。内容的にも、その後の五木作品にみられる仏教ネタ、日本のアウトサイダーに関するものが多い。つまり本書は、サンカや親鸞や蓮如といった、復活後の五木作品の根っこにあたる一冊なのである。
隠岐コミューン、かくれ念仏、南方熊楠など扱われているテーマは多彩だが、中でも蓮如に関する講演が面白い。親鸞に比べるとあまり知られておらず、誤解されがちな蓮如だが、著者はこの蓮如を希代のオルガナイザーとして再評価するだけでなく、親鸞と重なり合う存在として考察する。このあたりは、まさに五木節の真骨頂。
自身の父親についての話も出てくるが、これもまた興味深い。九州の山奥に育ち、当時日本の統治下にあった朝鮮で教育者として皇道教育を行っていた父に対する、一筋縄ではいかない複雑な思いが印象的である。常に「正統」と「異端」、「中心」と「辺境」を往還し、マージナルな存在に共感する五木文学の原点は、ここにあったのかと思われる一篇であった。