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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1988冊目】ギ・ド・モーパッサン『脂肪のかたまり』

 

脂肪のかたまり (岩波文庫)

脂肪のかたまり (岩波文庫)

 

 

モーパッサン、30歳のときの作品。こないだ読んだ『女の一生』のジャンヌとは違った意味で、主人公の太った娼婦ブール・ド・シュイフの悲痛が忘れがたい。

そもそもブール・ド・シュイフというあだ名が「脂肪のかたまり」という意味なのだから(つまりこのタイトルが主人公のあだ名なのである)、これ自体、ずいぶんひどい話なのだが、この女性が陥った状況もかなり悲惨なものである。なにしろプロシアの兵士によって何人かのフランスの紳士淑女が足止めをくらい、解放の条件が、このブール・ド・シュイフを「提供」することなのだから。

しかし、問題はこのプロシア人兵士ではない。最悪なのは、ブール・ド・シュイフが身を呈したおかげで助けられた人々が、感謝するどころかあからさまに彼女を見下し、けがれたものでも見るかのように扱うことなのだ。ブルジョワも、貴族も、修道女さえも、さんざん人を煽っておきながら、いざ自分が助けられると手のひらを返す。人間の醜悪さを、モーパッサンはこの短編のラスト数ページに凝縮させている。

唯一「まとも」な人間味を感じられるのが、一見すると最も「まとも」ではない、共和主義者のコルニュデであるというのが、またおもしろい。地位や職業と人間の価値をみごとに逆倒してみせた、モーパッサン初期の名編。