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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1971冊目】吉田武『呼鈴の科学』

 

呼鈴の科学 電子工作から物理理論へ (講談社現代新書)

呼鈴の科学 電子工作から物理理論へ (講談社現代新書)

 

 

端子に電池をつなぐと、コイルに電気が流れ、槌が鈴を打ち、音が出る。なんともシンプルな「呼鈴」の仕組みから一歩も離れることなく、磁石や電流の根本原理から相対性理論量子力学にまで至り、そしてぐるりと呼鈴に戻る。鮮やかな物理サーカスを見るような一冊だ。

著者は、ファラデーのクリスマス講義『ロウソクの科学』の精神に学んだと書いているが、私が連想したのは、ひところ有名になった灘高の名物教師、橋本武の「銀の匙授業」。あの授業では、中勘助銀の匙』の一行一行から、ありとあらゆる世界への扉が開かれた。本書では、呼鈴という小さく単純な構造が、そのままで世界につながっていることが明らかにされる。

数式を使わず、定義に頼らない講義を銘打っているが、それで「わかりやすい」かと言えば、そうではない。むしろ著者が冒頭で書いているとおり、数式は本来、物事の理解を促進するものなのだ。さらに言えば、そもそも難しいものは難しいという事実が、本書の出発点なのである。

正直に言うと、私は本書の説明の流れのうち、たぶん半分くらいは脱落していた。だが、それでも残り半分はそれなりに「わかる」のが、この本の不思議なところである。前半は分かったが後半は分からなくなった、というワケでもない。全体が、分かった部分とそうでない部分のマダラになっているのである。

言い換えれば、完全には分からなくても「一応の理解」に達するところまでは、著者は読者を連れて行ってくれるのだ。そして何より、科学の面白さ、実験や工作の面白さを、本書はものすごく雄弁に伝えてくれる。読み終ってすぐに電子工作がやりたくなったのは、私だけではないだろう。