自治体職員の読書ノート

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【1966冊目】ジャック・ロンドン『野生の呼び声』

 

野性の呼び声 (光文社古典新訳文庫)

野性の呼び声 (光文社古典新訳文庫)

 

 

超傑作。

犬が主役の小説なんて、読む前からバカにしていた。いわゆる「名犬モノ」なんて、ろくなもんじゃないと思っていた。

本書は、そう思う人こそが読むべき一冊だ。名犬モノにありがちなぬるさなど、この小説にはカケラもない。あるのは極寒のカナダ・アラスカ国境地帯に繰り広げられる、情け容赦ない自然のドラマなのだ。

この小説では、人間は脇役である。主役のバックと深い友情で結ばれるジョン・ソーントンでさえ、例外ではない。自然の圧倒的な猛威の前では、人間など何ほどのものでもない。

犬は、人間の世界に属しているように見えるが、奥底には野生の、原初の力を宿している。バックは飼い犬としてぬくぬくとした日々を送っているが、思いがけずさらわれて無理やり橇犬に仕立てられ、人間のために荷物を引いて極寒の地を走ることになる。だが、そんな苛烈な環境に叩きこまれることで、バックの内なる野生の火が点火されるのだ。

ジャック・ロンドンは、短編「火を熾す」を以前読んで驚き、そのうち長編を読みたいと思っていた作家だ。本書はその期待以上の、圧巻のデキであった。犬という動物にとって、人間のペットという立場は、決して本来の姿ではない。犬は狼の係累であり、もともとは自然の眷族なのである。私はもともと「ペットを飼う」ということが大嫌いなのだが、それはもともと野生に属するはずの動物に、人間に合わせた暮らしをさせること自体に、どうしようもない人間のエゴイズムと欺瞞を感じるからなのだ。