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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1945冊目】東田直樹『自閉症の僕が跳びはねる理由』

 

自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心

自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心

 

 

これは驚くべき本だ。自閉症の中学生が、周囲に理解されにくい自分の心の内をつづった、というだけでもスゴイのだが、その内容がとにかくすばらしい。自閉症と呼ばれる人たちが、いかに豊饒な世界をもっていて、それゆえにいかに苦しんでいるかが、肌身に沁みて感じられる。

たとえば「どうして水の中が好きなのですか?」という問いに対する答えがこうなのだ。

「僕らは帰りたいのです。ずっとずっと昔に、人がまだ存在しなかった大昔に」

その理由は「水の中にいれば、静かで自由で幸せだから」。普段は感じることのできない時間の流れを、水の中であれば感じられるから。

自閉症の人には自由はないのです。
 なぜなら、僕たちは原始の感覚を残したまま生まれた人間だからです」

「お散歩が好きなのはなぜですか?」という問いへの答えも心に刺さった。それは「緑が好きだから」だというのだ。しかも、自閉症の人たちが見ている緑は、われわれの見ている緑とは違うという。

「僕たちの緑は、自分の命と同じくらい大切なものなのです。
 なぜなら、緑を見ていると障害者の自分も、この地球に生きていて良いのだという気にさせてくれます。緑と一緒にいるだけで、体中から元気がわいてくるのです」

しかし、こんな内面世界をもっている著者も、いろいろ誤解され、悩み、苦しむことが多いという。

同じことを繰り返し尋ねる。大きな声を出す。耳をふさぐ。跳びはねる。気になるものがあると飛び出してしまう。予定が変わるとパニックになる(ちなみに、予定はスケジュールのように視覚化するのではなく、言葉で伝えてほしいとのこと。視覚化されてしまうとそれが気になりすぎてしまうから、だそうだ)。「自閉症」と呼ばれる人々の行動は、周囲をギョッとさせたり、困惑させてしまうことが多い。だが、そのひとつひとつには理由があること、彼ら自身も自覚があり、それゆえに苦しんでいることが、この本を読むとよくわかる。

だから本書は、自閉症に関わる人々、保護者や先生、福祉関係者の必読書だ。いや、できれば誰もが読んでおいたほうがよい。電車の中やお店など、どこで自閉症の人と行き会うかわからないのだから。そうすれば、少なくとも彼らの行動を冷たい目で眺めたり、子ども扱いしたり、差別したりすることはなくなるだろうから。

では最後に、本書で一番印象に残ったくだりを書いておきたい。「どうして目を見て話さないのですか?」という問いへの答えである。

「僕らが見ているものは、人の声なのです。
 声は見えるものではありませんが、僕らは全ての感覚器官を使って話を聞こうとするのです。
 相手が何を言っているのか聞き取ろうと真剣に耳をそばだてていると、何も見えなくなるのです」