自治体職員の読書ノート

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【1928冊目】『日本文学100年の名作第1巻 夢見る部屋』

 

 

先日読んだ2013年までの10年分から、一挙に100年を遡行する。並んでいるのは、森鴎外谷崎潤一郎芥川龍之介などの錚々たる面々だ。

荒畑寒村から始まっているのが意外だが、これは100年前の東京武蔵野の情景を留めておきたかったためだろうか。だが、社会主義運動にハマっている息子を案ずる父の感情がよく描かれており、寒村にこうした抒情的な作品があったというのが面白い。

次の鴎外はさすがの安定感。「寒山拾得」の突き抜けぶりは、今さらながら圧倒的だ。佐藤春夫はこれまた意外にもミステリ風味だが、解説によると、日本の「探偵小説」の歴史は佐藤や谷崎、芥川などから始まり、本書のラストを飾る江戸川乱歩に結晶したのである。乱歩が「二銭銅貨」というのも好ましい。

びっくりしたのは谷崎潤一郎小さな王国」の先駆性。「少年と悪」というテーマはゴールディング『蠅の王』あたりを思わせるが、谷崎はひとつの教室にそれを濃縮し、圧倒的な迫力で描き出している。宮地嘉六という作家は初耳だが、「ある職工の手記」はせつない青春小説の佳品であった。

芥川が「妙な話」というセレクションはなにゆえだろうか。もっといろいろありそうなものだが……と思いつつ、それでも巧妙に引き込まれる芥川の話術の巧さに驚愕。内田百間「件」は何度も読んだことのある大好きな作品。読むたびに見え方の変わる不思議な短編でもある。

長谷川如是閑「象やの粂さん」は本書随一の収穫。ジャーナリストというイメージしかなかった如是閑に、こんな抒情溢れる作品があったということに驚かされた。宇野浩二「夢見る部屋」は書生小説のはしりというべきか。不思議な味わいのある作品だが、個人的には少々退屈してしまった。

そして稲垣足穂「黄漠奇聞」が採録されていることに拍手を送りたい。この時代、このアラビックでルナティックで、壮大かつ幻想味あふれる作品を書ける作家が、タルホ以外にいたであろうか。ダンセーニまで登場し、物語は神話の世界に転がり出す。乱歩「二銭銅貨」は前述。思えばこの年は、関東大震災の年なのであった。この新潮社の100年企画は、1923年の関東大震災にはじまり、2011年の東日本大震災で終わるのである。