自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1925冊目】絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』

 

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

 

 

絲山秋子のデビュー作「イッツ・オンリー・トーク」と、「第七障害」の二作が収録されている。

先にエッセイを読んでいたため、どちらの作品も、主人公が著者自身に重なって読めた。躁鬱病、左ハンドルのマニュアル車、乗馬、群馬県……。中でも、どちらかというと「イッツ・オンリー・トーク」は著者自身の姿がナマで感じられる。「第七障害」のほうは、もう少し構造がはっきりしており、ストーリーラインも見えやすい。フレームがしっかり決まっているぶん、不思議なことに、登場人物が伸びやかに動き、話し、呼吸している。生意気な言い方を許していただければ、こちらのほうが「小説」になっている。

どちらの作品も、会話のリズムが絶妙だ。新人作家のデビュー作とは思えない。嘘っぽくなく、適度にリアルで、でもドラマがその中で動いている。それ以外では、「第七障害」の群馬県の描写がすばらしかった。私は群馬県は旅行でしか言ったことがないけれど、思わず移住したくなってしまった。

「東京なんて空気が汚くて、山が遠くて、水道の水ががぶ飲みできなくて、どうしてこんなとこに人がたくさん住んでるか、わからないよ。群馬に帰りたいよ」

「山って全部名前があるじゃん。景色に向かって話しかけることができる。『榛名、帰って来たよ』とか。高層ビルに向かって話しかける人なんかいないでしょ」

上越国境にしてもさ、長野県境にしてもさ、全部、ここまで群馬ってわかって安心するじゃん。そんなのない?」

良くも悪くも、デビュー作らしい一冊。最初でこの仕上がりなら、文句はない。