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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1923冊目】皆川博子『蝶』

 

蝶 (文春文庫)

蝶 (文春文庫)

 

 

1999年~2005年に書かれた8篇を収めた一冊。いくつかの作品で、家族や友達との関係が描かれており、ノスタルジックなものを感じたが、著者自身の少女時代がモチーフになっているのだろうか。全体のトーンは仄暗く、戦争の不穏な気配が漂っている。

この世のできごとを書いているにも関わらず、異様なまでに幻想的で虚無的なものばかり。中で比較的「わかりやすい」のは、少女の無垢と残酷、大人の悪意と偏見が絶妙に入り混じった「想ひ出すなよ」だろうか。一方、ギョッとしたのは「妙に清らの」のラストシーン。この「破壊力」は皆川博子ならではのものであろう。他には、最後の「遺し文」が切なくも残酷で忘れがたい。

どの短編も、詩のフレーズや歌の歌詞が添えられ、あるいは組み込まれている。まるでその短編ぜんたいが、ひとつのフレーズの残響であるかのようだ。この世のものならぬ、しかしまぎれもなく、この世の人々を描いた異形の短編集。