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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1909冊目】マルコ・ポーロ『東方見聞録』

旅・冒険・突破

 

完訳 東方見聞録〈1〉 (平凡社ライブラリー)

完訳 東方見聞録〈1〉 (平凡社ライブラリー)

 

 

 

完訳 東方見聞録〈2〉 (平凡社ライブラリー)

完訳 東方見聞録〈2〉 (平凡社ライブラリー)

 

 

知らない人はほとんどいない旅行記の古典。その割に、なかなか読まれることがない本でもある……が、今回読んでみてびっくり。これ、ムチャクチャ面白い。

1270年にヴェニスを出発し、エルサレム中央アジアを経て元の支配する中国へ。17年にわたりフビライ・カーンに仕え、その間に中国全土を踏査する。そして東南アジアからインドを経てトルコ、そしてふたたびヴェニスへ。その間、なんと26年にも及ぶ「世界一周旅行」なのである。破格のネットワーカーだ。

街のにぎわう様子や行き交う人々の雰囲気、宗教、文化、特産物まで、細部にわたり行きとどいた観察力と、メリハリの効いた記述に脱帽。各地のちょっと変わった風習や遭遇した事件が活き活きと描写されており、読み物としてたいへん楽しめる。

例えばイスラムの異端派ムレヘット(ムラーヒッド)の、若者を宮殿に閉じこめ快楽漬けにしてから刺客に育てるという「山の老人」。二頭の犬でライオンをつかまえるという中国・チュージュー(叙州)の狩猟。助からないとの見立てを受けた病人を殺して食べ尽くしてしまうダグロイアン島。モグダシオ島に生息する、象を爪で掴まえて吊るしあげることさえできる巨鳥ルク……。

インドではブッダの生涯を紹介して「もし彼がキリスト教徒であったなら、きっと彼はわが主イエス・キリストと並ぶ偉大な聖者となったにちがいないであろう」などと書いており、これは13世紀のイタリア人としては相当の見識であろう。有名な「黄金の国ジパング」も登場し、黄金と真珠を産する豊かな国として描写されているが、中でなぜか、日本人が「身代金を払えない捕虜を殺して食べてしまう」と描かれていたのにはびっくりした。

中でも特に厚く描かれているのは、なんといっても17年にわたり仕えたフビライ・カーンの統治に関する描写である。そのスケールはまさに破格であって、たとえば朝食の卓はおびただしい陪食者を伴い、その数は広間の外も含めればなんと4万人に及ぶ。賓客2人に1つの割合で、葡萄酒を満たした大きな黄金の容器が並び、食事の豪華さに至っては「その豊富な献立はとても信じてもらえそうにないから、ここに説明するのを割愛するとしよう」と書かれるほどだ。

かといって、ヨーロッパの絶対君主のように王侯のみが贅沢を享受するのではなく、貧者への施しは日々三万椀を超え、カーンの宮廷に赴いて施しを乞えば拒絶されることはない。交通インフラも素晴らしく、25~30マイルごとに宿駅が設置され、常に300~400頭の馬が準備されている。さらに、3マイルごとに通信文書を運ぶ飛脚人が住んでおり、彼らがリレー方式でどんどん文書を受け渡すため、10日程度の行程を一昼夜で駆け抜けてしまうというのである。

マルコ・ポーロの伝えた世界各地の事情は、さすがに今からさかのぼって検証すると、いろいろ間違いが見つかっている。だが、13世紀のイタリアの商人が未知の領域を歩いた結果を伝えた記録であるということを考えれば、その正確さと描写の細密さはやはり常識外れのレベルである。だからこそ、本書は(偽物呼ばわりもされたようだが)ヨーロッパの後世にわたる「東洋幻想」の礎となり、のちの大航海時代を準備した一冊となったのだろう。

そしてなんといっても、すでに書いたとおり、本書は旅行記としてべらぼうに面白い。まあ、未読の方は、だまされたと思って読んでごらんなさい。カルヴィーノが本書を「本歌取り」して、『見えない都市』のような奇想天外な物語を書きたくなる気持ちがよくわかる。

 

 

マルコ・ポーロの見えない都市

マルコ・ポーロの見えない都市