自治体職員の読書ノート

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【1906冊目】皆川博子『開かせていただき光栄です』

 

 

舞台は18世紀ロンドン。外科医であって私的な解剖教室を営むダニエル・バートンは今まさに、墓あばきからひそかに買い取った妊娠6カ月の遺体を「開いて」いるところだった。そこに突然現れた、治安判事のもと捜査に当たるボウ・ストリート・ランナーズ。あわてて遺体を暖炉に隠すダニエルと弟子たち。だが、彼らが去った後に遺体を取り出してみると、そこにあったのは四肢を切り取られた十代の少年の無残な骸だった……

よどんだ臭気さえ漂ってくるような、当時のロンドンの描写は圧巻。解剖教室の面々のコミカルなやりとりに漂うブラックユーモアは、まるで皮肉屋のイギリス人が書いたようなリアリティで、読みながら思わず「誰が翻訳者だっけ?」と考えてしまった。そして、詩人志望の若者ネイサン・カレンが登場すると、物語は過去と現在を行ったり来たりしつつどんどん加速し、いよいよ目が離せない。

ネイサンの周りに登場するあやしげな人々。ロンドンに渦巻く腐敗と暴力の中でもがくネイサン。一方「現在」のほうでは、盲目の判事ジョン・フィールディングの圧倒的な存在感。次々に解き明かされる謎が、また次の謎を呼ぶ。そしてラストの大どんでん返しに仰天し、やがて訪れるカタルシス……。

これぞ物語、これぞ小説の醍醐味。スリリングで、ユーモラス(かなりブラックだが)で、汚れた街ロンドンを舞台に、この世の最悪の光景と最上の光景を見せてくれた。ちなみにBL的要素も目ざわりにならない程度にちりばめられており、「その道」が好きな方も十分楽しめる。

そして恐るべきは、こんな充実したパワフルな小説を、80歳を超えて書いてしまう皆川博子という作家である。もはや人間を超えた、魔性のものさえ感じてしまう創造力、構成力、そして筆力。失礼ながら、バケモノと呼ばせていただきたい。