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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1897冊目】山下洋輔『新編 風雲ジャズ帖』

芸術・芸能・スポーツ

 

新編 風雲ジャズ帖 (平凡社ライブラリー)

新編 風雲ジャズ帖 (平凡社ライブラリー)

 

 

ずいぶん前に読んだ記憶があるが、いつのことだったか……と思って調べてみたら、オリジナルの初版は1975年とのこと。なんと、私自身の生まれた年とほとんど一緒じゃないか。さすがに赤ん坊で読むわきゃないので、私が読んだのはせいぜいその20年後といったところか。

本書は「新編」とのことで、オリジナルをずいぶん刈り込み、整理したものらしい。それでも文章のリズム感とスピード感は健在だ。この人の文章の面白さは、そのリズムとスピードに載せて、畳み込むように書かれたコトバの砲列にある。ただただ速いだけではなく、緩急自在、時にはブルースのように、時には目にもとまらぬ超絶技巧の乱れ打ち、そして時には、鍵盤に肘を打ちつけ暴れ狂うように……。

個人的には、九州にいた頃のタモリと出会った逸話にびっくりした。タモリは山下らがふざけ合っている部屋に勝手に入ってきて、初期メンバーの中村誠一が繰り出す「デタラメ朝鮮語」を3倍の勢いでしゃべり返し、中国語、ドイツ語と切り替えての応戦も、完膚なきまでに反撃した。このすさまじい戦いに勝利を収めたタモリを、山下らが「九州の天才」として吹聴したことが、タモリの東京デビューのきっかけとなったという。

全日本冷やし中華愛好会」のエピソードもケッサクだ。なぜ冬に冷やし中華が食えないか、というあたりはまだしも、「冷やし中華バビロニア起源説」の誕生に「会報冷やし中華」の創刊、さらには筒井康隆が送ってきた「長編伝奇冷血冒険冷やし中華SF」の会員有志の連作など、ここまでやるか、という「大人の遊び」の極みに笑いが止まらない。

とはいえ、話題の中心は(一応)ジャズのことなのだが、これもピアノを燃やしながら弾いたとか、肘打ちでピアノの弦を切ってホールに楽器を貸してもらえなくなったとか、まあとにかくものすごいのである。と思えば、冒頭にはかなりディープで本格的な「ブルー・ノート研究」が、後半にはQ&A形式の「洋輔のピアノ講座」があって、音楽的な興味で読む方はこちらを中心に読まれるとよかろう。そのあたりもすべて「込み」で、本書は山下洋輔という鬼才の「原点」というべき一冊なのである。