自治体職員の読書ノート

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【1882冊目】P・D・ジェイムズ『罪なき血』

 

 

先日読んだ丸谷才一氏の本で気になった著者。中でもこの本は、あらすじを読んだだけで強烈に惹きつけられた。

養子として育てられたフィリッパは18歳になって、実の両親を知るチャンスを与えられた。だがフィリッパが知った産みの親の「正体」は、少女を暴行して無期懲役となった父と、その少女を殺してやはり服役した母であった。父は獄中死していたが、母は出所間近。それを知ったフィリッパは養親のもとを離れ、母と暮らすことを決める。だが一方では、殺された少女の父親が、復讐のため母の出所を待ち構えていた……

ね、面白そうでしょう。たしかに扱われているテーマはヘビーだが、フィリッパの視点と死んだ少女の父ノーマン・スケイスの視点がリズミカルに切り替わり、スリリングな展開は緊張の糸がピンと張ったまま、一挙にクライマックスまで連れて行かれる。ヒッチコックあたりに映画化してもらったら傑作になったのではないか。

スリリングなだけではない。探り当てた実の親が暴行殺人者であったと知ったフィリッパ、娘を殺されたスケイスの複雑な心理の綾が丁寧に描かれ、物語に厚みと奥行きを与えている。明かされる「真実」も、内容的には決して後味は良くないが、書きっぷりがうまいので、ハッピーエンドとまではいかないにせよそれなりの納得感のある終わり方になっている。

あえて言えば、父母が懲役刑となったそもそもの事件があまりにも救い難く、しかもその部分があまり掘り下げられていないのがいささか気になったが(果してここまでどうしようもない事件にする必要があったのだろうか)、まあ、その点を差し引いても、これはなかなかの小説だ。どこかの書評で、これはシェイクスピアよりむしろギリシア悲劇だと書いているものがあったが、なるほど確かに、これは現代の『オイディプス王』かもしれない。