自治体職員の読書ノート

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【1855冊目】葉室麟『緋の天空』

 

緋の天空

緋の天空

 

 

本書の主人公は、光明子藤原不比等を父に、聖武天皇を夫にもち、この国の「成り立ち」に深くかかわった女性である。まだこの国が「日本」と呼ばれるようになる前の話だ。

藤原不比等天智天皇の意を継ぎ、「力ではなく律令で治まる国」を目指した。帝が変わるたびに戦が起きる国ではなく「不改常典の法」によって皇位が承継される国。そのため不比等大宝律令養老律令の編纂に関わるが、一方では「藤原氏」の権力の礎をつくりあげた。

光明子は父・不比等の志を胸に奮闘するが、そのことでかえって、藤原家のライバル・長屋王との、呪術を駆使した暗闘に巻き込まれていく。さらにそこに、長屋王の子、膳夫との恋が絡むあたりは、まるでロミオとジュリエット。切ない恋物語として、本書を彩る横糸となっている。

とはいえ、光明子には夫がいる。首皇子、のちの聖武天皇である。膳夫との恋心を胸に秘めつつ、光明子は夫を支え、さらには自ら先頭に立って長屋王に仕える悪鬼のような「唐鬼」と対峙する。そして政争の果てにたどり着いたのが「大仏建立」という発案だ。律令だけ、制度だけでは人は動かない。だからこそ、人心を安定させ、国家の中心となるイコンが必要なのだ。

制度づくりに腐心した不比等と、「心」に着目した光明子聖武天皇コントラストが、本書では鮮やかに描かれる。それは、この国が本当の意味で「国家」として成り立つための、システムと人心をつくりあげるプロセスである。本書は光明子という人物にフォーカスすることで、見事にそうした「国家の成り立ち」の様相を描き出してみせる。

それにしても、本書を読んでいると、奈良時代という遠い昔の光景が、頭の中にフルカラーで見えてくるから驚かされる。青い空、緋色の衣、新緑の葉、金色の大仏。ちょっとした装飾や風景の描写が丁寧なので、そこからすべてのディテールが立ち上がってくる。いろんな意味で、色鮮やかな一冊であった。