自治体職員の読書ノート

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【1839冊目】臼田捷治『工作舎物語』

 

工作舎物語 眠りたくなかった時代

工作舎物語 眠りたくなかった時代

 

 

 

挿話1。図版を撮る時は、まず図書館で複写をさせてもらい、本当にいいものだけをどんどん撮る。無反射ガラスを当てて、全体を撮り、寄りで撮る。松岡正剛は「君たちの目はズームレンズでないとだめだ」と言った。テレビの画面をチビの望遠鏡や双眼鏡で見たり、遠くにして見るようにした。

 

挿話2。杉浦康平は「四十までは寝るな。寝たら終わりよ。やれる時にできるだけやりなさい」と言った。みんなへたばるまでやって、寝袋に入って床に寝た。寒い時は新聞紙で身体をくるんでホチキスで止めて、寝た。

 

挿話3。戸田ツトムは、桑沢デザイン研究所での活動の中で、明け方まで校外で話をして校舎内に戻ったところ、開校時間外に入ったということで「侵入」とみなされて始末書を書けと言われた。どうしたものか松岡に相談したところ、松岡は言った。「もう一回やれ」そこで学園祭前日の夜に再度「侵入」し、四階から放水して学校中を水浸しにした。

 

挿話4。工作舎では、杉浦康平の方法論を全員で学んだ。文字を詰める時は、写植を一字一字切って、ものすごく小さく切った両面テープをピンセットで裏側に貼って付けた。九級の文字はわずか二ミリ。だがそれを切り貼りしているうちに、文字感覚を身体でつかんだ。

 

挿話5。工藤強勝は、松岡に言われた。何かにかかわるなら、徹底して周辺を熟知してからかかりなさい。ピアノを弾くには、ピアノがどういう成り立ちで、どういう木を使っていて、鍵盤の素材は何で、弦はどういう金属を使っているか研究しなければならない、と。

 

挿話6。山口信博は工作舎に入りたくて松岡と会った際、ギャランティが欲しいと言っているようにとられたのか、「君はこの仕事をして得たものはあるか」と聞かれた。対価の交換と無償性に裏付けられた贈与の関係について考え込むことになった。

 

挿話7。米澤敬は朝9時から書店を回って営業し、夜はデザインに取り組むハードな日々を送っていた。お金がなかったので、朝晩、パン屋でパンの耳を買ってきてフライパンで温めて食べていた。

 

挿話8。森本常美は6年にわたり工作舎で働いた。苦にはならなかったが、退舎すると日に日に頭がすっきりしてくるのに気付いた。3か月ほど経つと、その6年間が夢を見ていたように感じられた。

 

挿話9。大学生ながら工作舎でアルバイトをしていた祖父江慎は、仕事が忙しすぎて授業にまったく出なくなった。親から大学に行くように言われて松岡に申し出ると、松岡に「大学のどこがいいんだ? 言ってみなさい!」と怒られた。それでも粘ると「あした一日だけ大学に行って、大学で何が学べるか報告せよ」と言われ、言われたとおり一日だけ大学に行った。「で、どうだった?」と聞かれて「特に何があったということは、なかったんですが……」結局、明日からまた大学は休むことになり、祖父江は両親のほうを説得して大学を中退することにした。

 

挿話10。祖父江がトイレのドアを開けると、松岡がいた。「おう!」と挨拶されて「すいません」とあわててドアを閉めた。松岡はトイレの鍵をかけない人だった。