自治体職員の読書ノート

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【1781冊目】佐藤久夫・小澤温『障害者福祉の世界 第4版』

障害者福祉の世界 第4版 (有斐閣アルマ)

障害者福祉の世界 第4版 (有斐閣アルマ)

「障害者をめぐる20冊」3冊目。今度は制度面から。

本を開いてまずびっくりするのは、4つもの「はしがき」だ。初版から第4版までのはしがきが、6ページにわたって並んでいる。それだけ障害者福祉をめぐる制度や社会情勢がひんぱんに変わってきたということだ。

だいたい「はしがき」には、その本が書かれた(あるいは改訂した)きっかけや理由が端的にまとめられていることが多い。したがって、実はこの「4つのはしがき」をざっと読むだけで、制度変容のプロセスの大枠がつかめるのだ。この手の本を読むコツのひとつである。

現行の制度はもちろん、そこに至る経緯、障害者福祉の理念や思想、諸外国の状況や国際的な障害者福祉の動向など、現行制度の背景にあたる部分を知るために、本書は非常に有益だ。今の制度の問題点、なぜそういう制度ができたのか、今後どういう方向に障害者福祉は向っていくのか。そういったことは、「現行制度」の手引書を読むだけではわからない。

たとえば日本の身体障害者福祉は、戦前の傷痍軍人への国家保障が、戦後になって、日本国憲法の定める社会権生存権保障の考え方のもと、一般国民に広まったものであるらしい。

また、日本の知的障害者福祉は、戦災孤児や浮浪児、貧困家庭児への対策の一環として行われた知的障害児(当時の言い方では「精神薄弱児」)の保護収容を定めた児童福祉法が先で、「大人になった」知的障害児施設入所者の増加に対応するため、後から知的障害者対策が講じられたという順序で成り立ってきたという(だから日本の知的障害者施策は当初から「施設入所中心」の発想だったのだろう)。

あるいは、日本の精神障害者福祉制度は、なんと1987年の精神保健法制定まで「なかった」という指摘もなされている(それまでは精神「衛生」法だった)。どれも初めて知ることばかりだった。お恥ずかしい。

さて、障害者福祉制度のひとつのキーワードが「自立」である。今は障害者総合支援法になったが、その前までは法律名自体が障害者「自立」支援法だった。

個人的には、この「自立」というコトバが障害者福祉の世界で乱発されることには、前からなんだか違和感を感じていた。だいたい、こういう「誰も反対できないようなスローガン」ほどいかがわしいものはない。そもそも障害者であろうがなかろうが、社会に生きる人間が、完全な「自立」などできるものなのだろうか。

……と思っていたら、本書にはアメリカの「自立生活運動」の解説があって、そこを読むと(参考文献の引用として)こんなふうに書いてある。

《自立生活運動の代表的な規定は、「他人の助けを借りて15分で衣服を着、仕事に出かけられる障害者は、自分で衣類を着るのに2時間かかるために家にいるほかない障害者よりもより自立している」である》(p.65、ただしカギカッコ内は定藤他『自立生活の思想と展望』よりの引用とのこと)


う〜ん、これには参った。まさにこれこそ「自立」である。そしてその背景には、自立を単にADL(日常生活動作)の自立ではなく、「QOL(生活の質)の充実」で捉える価値観があるというから、うんうん、これなら大賛成である。「障害者の自己決定権と選択権が最大限に尊重されている限り、たとえ全面的な介助を受けていても人格的には自立している」(同頁)という考え方など、大いにうなずけるものがある。

ところが、わが国の障害者「自立」支援の考え方はどうかというと、「効果的な訓練で本人の能力を高め、自己の力と責任で自立を」(p.167)というのが理念だというから、何をかいわんや、である。アメリカの自立生活運動に学べ、などと言う気はないが、せめて以下の苦言に、関係者は耳を傾けるべきではないだろうか。

「過去60年、日本の障害者福祉は、「本人の力の強化」(能力向上)中心から「能力向上プラス不足する能力をサービス・環境でサポート」へと発展してきた。リハビリテーションノーマライゼーションを車の両輪とすることが審議会などでも確認されてきた。訓練主義の志向はこの歴史を逆戻りさせることになりかねない」(P.167-8)