自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1776冊目】アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』

決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)

決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)

スタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』は、控え目に言っても、良く分からない作品だった。

キューブリック作品全般にハマっていた数年前に観たのだが、スリリングだったのは真ん中あたりの、人工知能HALとボーマン船長の闘争くらいで、それ以外は冒頭の延々と続くヒトザルのシーンからラストの「スター・チャイルド」まで、なにやらとんでもない暗示と隠喩が込められていることは分かったが、それが果たしてなんなのかということになると、ほとんど検討がつかなかったというのが正直なところ。キューブリックのほとんど説明のないシナリオ展開と、にもかかわらず異様な迫力と質感の映像美に、わけもわからず酔わされた。

わからんのは自分がアホなのかと、暗〜い気分で観終えたのを覚えている。その後もわからないなりに気になって何回か観直してみたが、やっぱり肝心のところは意味が取れない。

この映画は自分には理解できないのかと、あきらめ半分だったのだが、でもやっぱりこの映画、何か「気になる」。そこでようやく手を伸ばしたのがこの本。「原作」というのとは、ちょっと違う。「語り草になるようなSF映画を作りたいのだが、なにかアイデアはないか」とキューブリックに聞かれたクラークが、かつて書いた短篇小説「前哨」のアイデアを使いつつ、しかしまったく新しい小説として書いたという、つまりは最初から「キューブリックの映画になる」ことを前提に書かれた作品なのだ。

で、読んでみたところ、さすがに「小説」だけあって文字を使って書かれているので(あたりまえだ)、映画より数段わかりやすい。キューブリックの独特の映像世界からは程遠いが、これはこれで独自のSF世界をつくっている。単体の小説として読んでもよし、映画の「注釈」として読んでもよし。ちなみに本書を読んだ後、久しぶりに映画のほうを観直してみたら、だいぶ「わかった」気がした。

ちなみに内容については、あえてここでは触れません。どちらも未見の方は、ぜひ映画を観て、本を読んで、もう一回映画を観てください(最初に「わけわからん体験」をしておくことが重要です)。

ところで本書の「訳者あとがき」によると、映画の試写を観たブラッドベリは、「クラークはキューブリックにレイプされたのだ」と慨嘆したそうだ。そのことを人づてに聞いたクラークいわく「それはちがう。レイプはおたがいさまだったよ」

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