自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1774冊目】キャロル・オコンネル『クリスマスに少女は還る』

クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)

クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)

クリスマス前の町から、二人の少女が忽然と姿を消す。この町では15年前にも、一人の少女がさらわれて、殺される事件があった。その少女スーザンの双子の兄、ルージュは刑事となり、「現在の」行方不明事件を追うことになる……

不思議な本だな、というのが読む前の印象だった。ネット上での評判がやけに良い(そこからこの本を知った)。なのに、どこがいいのかというと、その肝心のところは誰もが絶対に隠して言わないのだ。どうやら「ミステリ以外のところ」でとんでもない仕掛けがあるらしいのだが……

それだけの「気構え」で読み始めたが、どうも前半はひっかかる部分が多い。登場人物の関係がよく見えてこないし、不自然な描写も多い。暗示を効かせすぎて意味が読み取りづらいのは、当時新人作家だった著者の未熟さのためだろうか。

ところが中盤あたりから物語は加速し、それぞれのパーツがあるべきところにぴたりとはまっていく。特に心理学者のアリが披露する犯行のパターン分析(目当ての少女を誘い出すための囮として、一人目の少女が誘拐される)のあたりからは、事件の枠組みが徐々に見えてきて、だんだん面白くなる。さらに、囚われの少女たち、グウェンとサディーの活躍が捜査側の動きと並行して描かれるようになると、そちらの展開がスリリングで読むのをやめられなくなるのだ。

で、問題の「仕掛け」のほうだが……う〜ん、やっぱりこれは書けないし、暗示のしようもない。本書をレビューする誰もが口をつぐむのも、よくわかる。ただ、いくつか指摘しておくと、一見「新人っぽいヘタな書き方」に見えるところが、実はそうではないことが読み終わって分かる、という部分が何箇所かある。特に、読み終わってから改めて読みなおしたのが、冒頭のデイヴィッドの場面(←白字反転)。なるほど、「仕掛け」はすでに、ここから始まっていたのか。

さらに言えば、本書を「ミステリ」として書いたことこそ、著者最大のたくらみだったのかもしれない。ミステリとなれば、読んだ人が「ネタバレ」しないことは暗黙の了解である。そして、読んだ人が仕掛けをばらしてしまったら、この物語は活きてこない。著者はいわば、ミステリのお約束を逆手にとって、ミステリ「外」の部分で仰天のどんでん返しを仕掛けてみせたのだ。

ミステリを再読することは滅多にないが、本書は思わず読み返してしまった。一度読んだ時には気付かなかったことが、全然違う意味をもって迫ってくる。しかも、実はかなりあからさまな会話や描写が至るところに仕掛けられているのに。だいたい、邦題のタイトルが反則技ギリギリである。「帰る」じゃなく「還る」(←白字反転)にしているあたりなど、実に巧妙だ。

まあ、ここまで書いて今更ではあるが、本書は何も知らず「単なるミステリ」として読むべきだ。それがこの稀有の小説を「一番おいしく」いただく方法なのだから。でも、ネタバレは絶対ダメよ。