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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1770冊目】坂本眞一『イノサン』

謎・恐怖・幻想

シャルル‐アンリ・サンソン。18世紀末のパリに生きた「死刑執行人の一族」サンソンの血を継ぐ者。後に4代目「ムッシュー・ド・パリ」となり、フランス革命では国王ルイ16世と王妃マリー・アントワネットの首を切り落としたこの男が、本書の主人公である。

死刑のない世の中を望みつつ罪人の首を切り、国王を刺した農民に同情しつつ八つ裂きの刑の采配をとる。そんな矛盾と葛藤に満ちたシャルルの生きざまが、圧倒的な画力で描かれている。

細密で美麗な描写は絶対王政下のフランスを描くにはぴったりで、特に貧しい農民が柵の向こうから見たベルサイユ宮殿の圧倒的な美しさには体が震えた。しかも、同じ細密なリアリティで、死体にたかる蠅や拷問を受ける罪人を描いているものだから、その迫力たるやものすごい。中でも、4巻の大半をつかって描写される「八つ裂きの刑」のシーンは、圧巻の一言。

エグいしグロいのに、美しい。人体の「ねじれ」や飛び散る内臓、拷問を受けて爛れた手足を「美しい」などというのは人としてはばかられるモノがあるが、事実だからしょうがない。

物語としてはまだまだ先が長いため(なにしろまだ連載中だ)、今後が楽しみとしか書きようがない。安達正勝『死刑執行人サンソン』が元になっているとのことなので、こちらを読めば先の予測はつくのだろうが、このマンガに関しては、筋書きよりもとにかく圧倒的な画力を堪能したいのである。

ちなみにこの作家の「絵のうまさ」をもっとも感じたのは、実は登場人物の表情だ。しかめた顔がぱっと明るくなったり、冷たい眼で一瞥したり、というちょっとした表情の変化が、異様なほどに巧みなのである。そのため、セリフは決して多くないのに、かなり微妙で複雑な人間ドラマにもなっている。特に死刑執行人一家、サンソン一家の隠れた確執には目が離せない(特にサンソンの妹、マリーが要注意だ)。

死刑執行人サンソン ―国王ルイ十六世の首を刎ねた男 (集英社新書)