自治体職員の読書ノート

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【1769冊目】花井裕一郎『はなぼん』

はなぼん ~わくわく演出マネジメント

はなぼん ~わくわく演出マネジメント

以前、図書館関係の本を続けて読んでいた時、気になったのが長野県小布施町の「まちとしょテラソ」だった。

驚いたのは、開放感のあるつくりに加え、会話OK、イベントOKというコンセプト。だが本書を読むと、それすらもこの図書館の魅力のほんの入り口だったことに気付く。

館長席は入口近くのオープンスペース。カフェコーナーではお茶やコーヒーどころか、近所のおばちゃんたちが漬け物をぽりぽりかじっている。館内にはラジオのBGM。講演会やイベントが頻繁に開催され、なんと太極拳教室や「美術部」まで活動している。

さらにデジタルアーカイブ事業小布施人百選」では小布施町の功労者を記録映像として残すなど、アーカイブ事業も充実している。国立情報学研究所(NII)の連想検索エンジン「想」とコラボレートし、本のつながりを生み出すことにも余念がない。そして、こうした八面六臂の活動の仕掛け人となったのが、本書の著者、花井裕一郎氏だ。

おもしろいことに、著者はもともと小布施の出身ではなかったし、図書館関係の仕事をしていたわけでもなかったという。東京のテレビ局で番組演出の仕事をしていて、「アメリカ人女性の造り酒屋」セーラ・マリ・カミングスさんを取材しに小布施町を訪れ、一挙に魅せられた。いったんは東京に戻ったものの、紆余曲折の末に小布施へ移住、栗菓子で有名な小布施堂の「文化事業部長」になる。そして公募がかかっていた新図書館の館長職に立候補、25名の応募者の中から選ばれたのだ。

もちろん、著者自身の魅力や実力があってのことだと思うが、何より私が魅せられたのは、小布施町のこの懐の深さであった。著者によれば、小布施「外からやってきた客人(まれびと)を受け入れ、そこから新たな活気や文化の波を生みだしてきた町」だという。かつて葛飾北斎小布施に招かれて活動の拠点としたことにちなみ、外からやってくる人々を「今北斎」と見立てて歓迎する気風があるらしいのだ。

そうした土壌があってこそ、セーラさんがこの町で造り酒屋の復活をなしとげ、さらに著者がセーラさんへの取材をきっかけに、やはりこの町にやってきた。その結果がこの異色の図書館の誕生だったのだから、すべてはつながっているのだ。

そして、読みながら思ったのは、「まちとしょテラソ」って、小布施町そのものではないか、ということだった。居心地がよく活気に満ちた(著者に言わせれば「わくわくした」)空間があり、そこに人々が集い、イベントでは外から人がやってきて(「まれびと」である)、良いものはどんどん取り入れていく。まさに相似形ではないか。

そして、おそらくこの「まちとしょテラソ」や、著者が新たに始めたNPO「オブセリズム」(http://obuserhythm.com/index.html)がまた新たな磁場となって、次の「今北斎」を呼び寄せるのだろう。それは私かもしれないし、あなたかもしれない。そうそう、小布施町の職員に、今「空き」はありますかねえ……?