自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1763冊目】白石一文『快挙』

快挙

快挙

この著者の本は2冊目。以前読んだ『不自由な心』は丸出しの男性目線がかなり鼻についたので、やや警戒しながら読んだ。

写真家志望だが芽が出ず中途半端にアルバイトで食いつないでいる男が、たまたま月島で小料理屋をやっている女性と出会い、結婚する。本書はその後の夫婦の日々を追った物語なのだが、結論から言うと、以前感じた「男性目線」は健在。ただ前作に比べて、それがこなれてきているというか、それなりに「大人の」目線にはなってきていると感じた。そのため、『不自由な心』の時は女性蔑視があからさまで、男性である私でもちょっと引くものがあったが、本書ではわりとすんなり主人公の視点に入り込むことができた。

大小さまざまの事件が起き、二人の心が近寄ったり離れたりするなかで、それでも夫婦として寄り添って生きていくという、淡々としていて同時にドラマティックなところが秀逸。特に神戸滞在中、みすみの心が主人公から離れていくあたりは、さすがにもうダメかと思わされたが、そこを引き戻した主人公の一言こそが、まさに「快挙」なのだろう。

夫婦の出会いが「快挙」であるのは誰でも多かれ少なかれそうだと思うが、その途中、危機にあたって「快挙」を重ねることができるかどうかが、夫婦にとって大事なことなのだ。その意味で本書のタイトル『快挙』はナイスである。

ちなみに、私が本書でもっとも忘れがたいのは、作中に登場する三好兵六という俳人の句であった。

「夫婦とは なんと佳いもの 向い風」


なんと味わい深い句だろうか。もし今後、友人が結婚することがあれば、この句をぜひ贈りたい。

不自由な心 (角川文庫)