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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1759冊目】佐藤優『人に強くなる極意』

組織・仕事・公務員

「BIG tomorrow」誌の連載がもとになった一冊。8つのテーマに分けて、著者の対人関係や仕事に関するノウハウを詰め込んでいる。

必ずしも「人に強くなる」内容だけではないので、単純なコミュニケーション・スキルアップや「度胸をつける」ことばかりを期待して読むと、ちょっと肩すかしを食らう。だが、一見単純なノウハウに見えることでも含蓄がたいへん深いので、浅く読んでもそれなりに、深く読めばさらなる発見がある。

面白いのは、すべてのテーマについて、かならず「反対側」にも触れている点。たとえば「怒らない」というテーマなら、あえて「怒り方」や「怒る必要性」にも触れているし、「びびらない」なら、一方で「びびるべきシチュエーション」にも言及しているのだ。

「怒らない」では、うまい「怒られ方」が参考になる。少し本筋からは外れるが、自治体職員として重要なのは「事務作業のイージーミスほど致命的」というくだり。確かに一枚のコピーミスやファックス忘れが、時に大変な事態を引き起こすもの。私もいろいろ痛い目にあってきているので、著者の言っていることはよくわかる。

「びびらない」では、検察とやりあった著者の経験が活きている。次のフレーズがポイントだ。

「相手を知ること、相手の「内在的論理」を知ることで、僕らはむやみにびびることがなくなります。そのためにも、いま自分がびびっている相手にこそ、目をそらさず向かい合うことが大切です」(p.59)


「飾らない」では、飾る意識、自分を大きく立派に見せたいという心理の裏側にあるものに着目する。それは「組織のルールの中で少しでも上に行くことが全てのような感覚」だ。

「ポイントは、自分を大きく見せたい、飾りたいという意識が強い人ほど、このカラクリにすっかりはまってしまうことです」「そういうものにどっぷりと浸るのではなく、引いた目線でそのカラクリを認識しておく。どこか冷めた目で世の中を客観視し相対化することが大事です」(p.81)


「侮らない」の章は、「今こそ「畏れ」の気持ちをとり戻す」というフレーズが全てだろう。「目に見えないもの、形に表れないものをリスペクトする気持ち」。それを取り戻すにはどうすればよいか……本書をお読みください。

「断らない」は、「断る力」を謳う某新書をおちょくっている感じもあるが、でも大事なことだ。興味深いのは「仕事の遠近感」という言葉。今日やるべき仕事と明日に回しても大丈夫な仕事の見極めをつけることが、仕事では重要だ。だが、これができるようになるまでには、ある程度の経験が必要である。だからこそ「いろんな仕事を「断らない」ことで、自分に負荷をかけることが大切」になってくると著者は言う。

「お金に振り回されない」では、マルクスを引きながら、金銭というものの本質が洞察されていると。ドキッとしたのは以下の指摘。

「自然界にあるものは、人間はある程度得られれば満足するよう本能的にプログラムされています。しかし、人間と人間の関係がつくり出したお金にはそれがないようです」(p.148)


「あきらめない」では、むしろ「あきらめる」方法が重要だ。身分制から解放され、過大な立身出世志向が生まれたのは日本では近代以降。与えられた土地を命を懸けて守る「一所懸命」から、個々人が自分の一生という時間に対して頑張る「一生懸命」への変遷を知り、その上で何に対しては「あきらめない」べきなのかを知ることが大事なのだ。

「先送りしない」は、さっきの「断らない」とも内容的にややリンクしている。ここでは「時間割引率」という概念がおもしろい。行動経済学の理論らしいが、時間を経たモノ、将来のモノは価値が下がって見えるというのである。その遠近感の歪みが、いろんな判断や行動を狂わせ、適切なジャッジができなくなってしまう。先送りしたくなる背景には、こうした認知の歪みが働いているという。

この程度のかいつまんだまとめでも、結構「深い」ことを言っているのがわかると思う。かなり売れているらしいが、それも納得の一冊だ。