自治体職員の読書ノート

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【1758冊目】安倍夜郎『深夜食堂』

深夜食堂 1 (ビッグコミックススペシャル)

深夜食堂 1 (ビッグコミックススペシャル)

「おいしい10冊」10冊目。

営業時間は、深夜0時から朝の7時まで。メニューは豚汁定食のみだが、できるものなら、言えばなんでも作ってくれる。新宿界隈のそんな小さな食堂は、のれんには「めしや」とだけ書かれているが、常連からは「深夜食堂」と呼ばれている。

ビッグコミックオリジナル」連載中のマンガ。この雑誌に載っている他のマンガ同様、読むほどに、じわりと心が温まる。

いわゆるレストランの「美味い味」じゃなくて、心に沁みる味のあるマンガなのだ。絵だっていわゆる「ヘタウマ」の部類に近いが、かえってそれがなんともいえない味わいをもっている。

なにしろ夜中しかやってない店だから、常連客もフツーじゃない。来るたびに赤いウィンナーを頼むヤクザの幹部、甘い卵焼きが好物のゲイバーのママ、しょっちゅう男が変わるストリッパーのマリリン、来ると必ず梅、たらこ、鮭のお茶漬けを頼むOL三人組「お茶漬けシスターズ」……。だいたい常連客は頼む料理が決まっていて、それがどんな職業や見てくれより、その人の人となりを現してしまうから面白い。

だいたい、そんな店で頼みたくなるような料理って、たいていその人の心の中で特別な位置を占めている料理なのだ。だから客が食堂を訪れ、そして何かを注文すると、それだけでドラマが動き出す。

とはいえ、この店では自分から語りださない限り、誰もそんな過去をほじくり出そうとはしない。みんな和気あいあいとしていて温かいが、踏み込んではならない一線はちゃんと承知している。酸いも甘いもかみわけた、オトナの食堂なのである。

それぞれに魅力的な登場人物の中で、やはり飛びぬけてカッコイイのが、この食堂を一人で切り盛りする「マスター」だ。飄々としているがなんとも味わいの深いキャラで、とぼけた中にも渋みがある。この人がいれば大丈夫、この人の料理なら温まる、この人の食堂なら居場所がある、と思える。こういう人間的な味わいの深い人って、昔はもっとたくさんいたんだろうなあ。小津の映画なんかに良く出てくるオジサンを思わせる。

実はこのマンガ、まだ刊行中の単行本のうち、半分くらいまでしか読んでいない。ネットカフェで見かけて読みだしたらハマり、一気に6巻まで読んでしまったのだが、なんだかもったいなくなってそこで止めたのだ。もっと一篇一篇を、ゆっくりかみしめるように読みたい。

すでに読んだ6巻分も、ちゃんと買ってベッドの近くの本棚に起き、毎晩でも繰り返し読みなおしたい。これは「そういうマンガ」なのだ。