【1750冊目】高山なおみ『記憶のスパイス』
- 作者: 高山なおみ,齋藤圭吾
- 出版社/メーカー: アノニマスタジオ
- 発売日: 2006/09
- メディア: 単行本
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「おいしい10冊」2冊目。
こないだ読んだ松浦弥太郎氏の『ぼくのいい本こういう本』で気になった本のひとつ。著者のことはほとんど知らなかったが、もとは吉祥寺でシェフをしていたらしい。現在の職業は「料理家」とのことで、調べたらたくさん本を出していて……あ、『日々ごはん』の著者の人か、と後から気付いた。
本書はその高山なおみさんが文章を書き、齋藤圭吾氏が写真を撮った「おいしい」一冊。どのページも、世界や日本の各地で味わった料理の思い出が綴られているのだが、これがなかなか味わい深いのだ。料理の味や匂いとともに、旅先の記憶がふいによみがえってくる、みたいな。
プルーストの「紅茶にひたしたマドレーヌ」じゃないが、味とか匂いのもつ「記憶力」って、スゴイ。ホームシックにかかったロンボク島で食べたお弁当。波照間島の民宿のおじいが目の前で揚げてくれた紅芋とつけあわせの黒砂糖。インスタントラーメンを砕いてつくったヌードル・スープでは風邪をひいてしまった寒いカトマンズを、ココナッツミルクのお汁粉では、マニラ空港のさびれた風景を思い出す。これからは、旅先では「食べたもの」の写真を撮っておくことにしよう。ヘタな風景写真より、よっぽど記憶の喚起力がありそうだ。
とはいえ、写真を撮った齋藤圭吾は、思い出の地に同行していたわけじゃない。おそらくは著者の文章にあわせて、後から撮っているのだ。なのに本書の写真は、なんと臨場感があることか。ペルーのフーゴ(絞りたてオレンジジュース)の写真では、オレンジのしぼり汁が垂れたようにコップの下が濡れているし、フィリピン風焼きそばに乗っている目玉焼きがへたっているな、と思っていると、「のせる時に、勢い余って半分に折れちゃったみたいな目玉焼きがのっかっていました」と文章のほうに書いてある。
気取った料理などほとんど見られない。出てくるのは素朴でなまなましい、こちらが戸惑うほど生活感むき出しの料理ばかり。う〜ん、いいですねえ。こういう料理に出会いながら、ゆったり旅をしてみたい。