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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1739冊目】三浦綾子『泥流地帯』

泥流地帯 (新潮文庫)

泥流地帯 (新潮文庫)

北海道小説5冊目は、北海道と言えばこの作家、三浦綾子氏の長編小説。大正15年の十勝岳大噴火を題材に、北海道の貧しい集落に生きる人々を描いた一冊だ。

文庫本で530ページほどのボリュームだが、噴火で山津波が押し寄せてくるシーンは455ページ目と、なんと物語の8合目過ぎ。そこまでの間にたっぷり描かれてきた日進部落の人間模様が、築き上げてきた生活が、育まれてきた愛情が、そして別れて暮らす母への愛情が、大量の泥流とともに一挙に押し流される光景は衝撃的だ。

昭和52年に刊行された小説だが、読んでいるとどうしても思い出すのは、東日本大震災のあの津波。噴火による山津波地震による津波の違いはあるが、それまで営々と築き上げた生活や人生を一瞬で破壊し、リセットしてしまう災害の無常な迫力はおんなじだ。そしてその中で、それでも力強く立ち上がる人間の強さも。それを描くために、延々400ページ以上、ひたすら「生活」を描きあげた著者の姿勢には恐れ入る。

災害は犠牲者を選ばない。人徳者だった祖父の市三郎や、母に会えるのを楽しみにしている妹の良子も命を奪われる。一方、噴火前はイヤな奴として描かれてきた叔父の修平や益垣先生が、生き残った後は別人みたいになっているのも印象的だ。まるで災害が、生き残った人々の魂を浄化したかのように。

人物造形がやや図式的だったり、セリフに著者の信念や観念が出過ぎていたりと、気になる部分もないではない。だが、全体の構成がもつ迫力がそうした細部を吹き飛ばす。災害を経て生きるとはどういうことか、すべてを失ってなお生きるとはどういうことかを、心底考えさせてくれる小説だ。続編もあるらしいので、そのうち読んでみたい。