自治体職員の読書ノート

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【1736冊目】乃南アサ『地のはてから』

地のはてから(上) (講談社文庫)

地のはてから(上) (講談社文庫)

地のはてから(下) (講談社文庫)

地のはてから(下) (講談社文庫)

北海道小説2冊目。

乃南アサといえばサスペンス小説のイメージが強かったが、こんな物語を書ける人だったのか。びっくり。

舞台はやはり開拓下の北海道。わずか2歳で北海道にわたり、過酷な環境の中で生き抜いてきた一人の女性の半生をたどる長編小説。父がつくった借金のため追われるように乗り込む夜汽車から、子供たちを連れて母に会いに行くラストまで、上下計700ページは激動に次ぐ激動。人が次々と生まれ、死んでいく中で、どんどんたくましくなっていく主人公「とわ」の力強さと温かさが素晴らしい。

時代は大正に始まり、終戦の後まで届いている。第一次大戦の好況とその後の不況、次第に不安定になっていく世情、そして北海道の人々まで巻き込んだ太平洋戦争と、時代が常にとわたちの生活の向こう側に見えている。それまで信じられたものが信じられなくなる時代の変遷。だいたい北海道の生活をバラ色に描いたのだって、音頭を取ったのは国だった。それでたどり着いた極寒の原野で、とわの家族は文字通り死ぬ思いをしたのである。

「金輪際、どうだごとあったって、お国の言うことなんと信じてぁなんねぁ。
どうえ、んめぁ話聞がさっても、話半分、いんや、十に一っつ。百に一っつあっかねぁがと思ってねぁど、ただただ、後んなって酷い目に遭ぁがんな」

とわの母は、生まれ育った福島・神俣の方言でこう話す。国の言う事なんぞ信じるな。うまい話なんぞあるものか、と。だが国は、言うことを信じようが信じまいが、容赦なくとわたちを翻弄する。とわたちにできるのは、ただ生きること。生き抜くこと。

北海道の自然の過酷さもすさまじい。特に最初に入植したイワウベツでは、死に物狂いで育てた作物が、毎年のようにバッタの大群に喰い尽くされる。夜の寒さは家族で身を寄せ合っていないと凍えるほどだ。まだこの時代、北海道のはずれのほうには、電気もガスも水道も届いていなかったのである。

だからこそ、必死にその日その日を生き抜こうとする、とわたちのたくましさが際立ってくる。読んでいて、そのすさまじい生活に胸が詰まる。だが同時に、とわの強さ、温かさに救われる。アイヌの若者、三吉とのささやかな交流もほほえましい。

NHKはこういう物語をこそ大河ドラマにしてほしい。骨太の成長ドラマ、人生ドラマである。オススメ。