自治体職員の読書ノート

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【1713冊目】スティーヴン・キング『図書館警察』

図書館本6冊目。図書館を舞台にした小説をもう一冊、取り上げたい。ただし、『図書館戦争』とはかなりタッチが違っていて、「怖い図書館」を思い出させる作品だ。

どこまで共感してもらえるかわからないが、図書館好きの子ども時代を過ごした人ほど、身につまされる図書館の「怖さ」の感覚というものがあるような気がする。

間違って大人用の本(特に、奥のほうにある「哲学」とか「宗教」のような「いかつい」本)が並んでいるエリアに入り込んだ時は、特に怖かった。薄暗い室内。そそり立つ書棚で見通しが効かない、迷路のような館内。ものものしく分厚い書籍。それでなくたって、カウンターの職員(司書だったかどうかはわからないが)は、貸出しの時だってずいぶん無愛想だったし、返却日が遅れるとギロリと睨まれ、注意された。

そう考えると、最近はずいぶん図書館も明るくなり、サービスも良くなったものだと思う。いや、ひょっとすると今の図書館も、子どもたちにとってはまだ「怖い場所」なのだろうか?

いずれにせよ、そういう忘れていた感覚をピンポイントで刺激してくれるのが、「ホラーの帝王」スティーヴン・キングのこの一冊だ。だいたい「期日に本を返さないと現れる図書館警察」なんてものをメインに、文庫本で400ページ近い小説を書いてしまうところがすさまじい。

圧巻は、最初のほうに出てくる、ジャクションシティ公立図書館の描写。なにしろ、そそり立つ書架は「足首を縛られたまま、周囲に本がずらりとならんだ四角形の穴ぐらに、上下さかさまに吊りさげられているよう」で、雑誌ラックは「奇怪な動物たちが治療のために閉じこめられている隠れ家」に見える。そしてきわめつけは、「原初的な感情である恐怖に訴えかける」児童図書室のポスター! そこにはもちろん、かの「図書館警察」のものもあるのだ。

図書館警察の厄介になるべからず!
よい子は本の返却日をかならず守りましょう!

さらにそこに登場するのは、おそらく世界最「恐」の司書、アーデリア・ローツである。物語の中盤過ぎまでさんざんじらされた上、ダーティ・デイヴによって語られる邪悪そのもののローツの正体は、まさに鳥肌モノ。こんなに引っ張って大丈夫なのかと心配になるくらい謎の正体を引っ張るのはキングの常套手段だが、引っ張った分の期待を超える恐怖をもたらしてくれるのも、またキングなのだ。

「図書館」を常に中心に据えつつ、これほどの恐怖とサスペンスを展開した小説はおそらく例がない。図書館をめぐるイメージの「極点」に達した一冊として、「図書館本」のリストに加えたい。

本書にはもう一篇、ポラロイド・カメラをめぐる恐怖譚「サン・ドッグ」も収められている。こちらは徐々に迫ってくる恐怖と、それに立ち向かう少年の対比が見事。『ニードフル・シングス』の前日譚とのことだが、裏話程度のかかわりなので、知らなくても十分に楽しめる。もっとも個人的には、やはり「図書館警察」の恐怖が極上であった。

ニードフル・シングス〈上〉 (文春文庫) ニードフル・シングス〈下〉 (文春文庫)