自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1709冊目】猪谷千香『つながる図書館』

つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)

つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)

図書館本2冊目。最近めっぽういろんなところで取り上げられている本(kei-zuさんの「自治体法務の備忘録」でも紹介されていた)だが、それだけのことはある。図書館の最新事情を取材しつつ、その核心に迫る一冊なのだが、新書にもかかわらず、中身はけっこう濃い。

千代田図書館小布施町の「まちとしょテラソ」などの革新的な公共図書館の紹介と、指定管理者問題や職員のワーキングプア化、神奈川県立図書館の「閲覧・貸出禁止」や「廃館」騒動といった図書館をめぐる問題点がバランスよく取り上げられている。この間読んだ武雄市図書館も、単なる紹介ではなく近隣の伊万里市民図書館との「比較」で解説するなど、いろいろ工夫が凝らされており、読んでいて飽きることがない。

武雄市図書館に関しては、市民によって育てられてきた伊万里市民図書館との比較ということで辛口評価かと思ったら、そうでもなかった。確かに「気になる」点はいろいろあるにせよ、著者は従来の図書館の枠をはみ出した存在であると武雄市図書館を捉え、性急な判断を避けている。それは「新しいモノに対する人」の態度として、たいへんまっとうなものであると思う。

「図書館の活動とは、十年、二十年かけて、初めて実るものであり、今、武雄市図書館への評価を拙速に下すことはできないと考えている。未来にならなければ、その本当の価値はわからないのではないだろうか。そして、その価値を作るという重責を担っているのが、他の誰でもない、今、武雄市図書館の現場で働いている人たちなのだ。心からエールを送りたいと思う」(p.165)


この武雄市図書館に絡めて、指定管理者制度の図書館への導入の可否についても、本書ではかなりページを割いて考察している。そこで見えてくるのは、むしろ現在の「直営」公共図書館の脆弱さだ。司書が配置されず、非常勤職員や臨時職員で低賃金化が進み、しかも短期間の異動でノウハウも身につかない。

むしろ本書に紹介されているTRC(図書館流通センター)のように、複数の図書館に指定管理者として入っている会社のほうが、ノウハウが蓄積され、図書館プロパーのエキスパート人材を擁している。なんと司書資格も、スタッフの6割が取っている。ちなみに専任職員のうち司書資格を保有しているのは、5割強。民間会社に「負けて」いるのだ。

しかも多くの図書館で受託を受けているので、スケールメリットが働く。1か所で指定を受けられなくても他の図書館に回すことで雇用の場を確保し、さらに研修メニューを作って図書館の「プロ」を育成しているというのだというから、これは相当なモノである。

「図書館は結局、人じゃないですか?」と本書で語っているのは、TRCの谷一文子会長。もちろんこういう指定管理者ばかりではないが、それにしてもこれでは、「そこそこやっている」程度の直営図書館では到底太刀打ちできまい。

さらに驚いたのは、自治体が設立する「公立図書館」ではない「公共図書館」が増えているという記述だ。既成の図書館に「入る」のではなく、小規模な「まちなか図書館」のような場所を作ったり、町の中の「本のある場所」(ブックスポット)を紹介するような試みが、NPOや個人の有志によって始まりつつあるというのである。中でも極めつけが、島根半島沖に浮かぶ離島の海士町における「島まるごと図書館構想」だろう。

つまり図書館問題は、すでに「直営か指定管理か」のような二択ではないのだ。それは住民やNPO、学者やジャーナリストなど、さまざまなアクターが関わり合う中で形成される多様な「知の拠点」である。その中で、国や自治体が果すべき役割は何なのか。そのことを本気で、絞り込んで考えていかなければならない時代が、もうやってきているのだろう。

本書はその最前線における息吹を伝える一冊。たいへんおもしろかった。本書に限らず、この「テーマ読書」関連はすべて、図書館関係者は必読だ。