自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1680冊目】横須賀薫他『図説 教育の歴史』

図説 教育の歴史 (ふくろうの本)

図説 教育の歴史 (ふくろうの本)

教育・学校本8冊目。

オールカラーで図版たっぷりの「ふくろうの本」の一冊。主に明治以降の日本の教育史を辿っている。著者は教育学者の横須賀薫、「地球の楽好(がっこう)」理事長の千葉透、秋乃宮博物館館長の油谷満夫。

3人のうち戦前生まれが横須賀氏(1937年生まれ)と油谷氏(1934年)の2人となっており、戦前から戦後にまたがる記述では、両名の体験も交えた解説がおもしろい。特に戦後間もない時期の教科書の「墨塗り」の話など、知識としては知っていても、当事者の話として読むと生々しくて驚かされる。

「その日から数日後、学校へ登校すると勉強道具をすべて持って体操場に集合するよう言われた。すべて持って行くと板の間に正座させられ、カバンの中の本やノートをすべて出すよう指示があり、戦争や軍に関係する絵や文字を硯ですった墨で消すように命令された。何が何だか分からないが、生徒全員が黙々と作業していた。(略)戦争に負けたことはなんなのかも分からず、先生からは全く説明された覚えもない(後略)」(p.82)


まあ、おそらく先生方も説明できなかったのだろう。だいたい昨日まで教えていたことがいきなり「墨で消せ」となるのだから、先生にしてみれば威信まるつぶれ、信頼も何もあったものではない。本書には一行ごとでは面倒になったのか、1ページまるごとべったりと墨塗りされた教科書の写真も載っている。もっとも、大人や国の言うことが昨日と今日でコロリと変わるという体験自体が、児童にとってはある意味きわめて重要な「人生の授業」になった、ということにはなるのかもしれない。

ちなみに、本書は解説も分かりやすいが、すばらしいのは当時の写真や図版の豊富さだ。教科書や通知表、子ども向け雑誌のデザインや学習風景をとらえた写真などは、日本が辿ってきた教育の歴史がどのようなものだったのかを肌感覚で教えてくれる。特に大正期は、英語教育と軍事教育が共存し、女性の教育も高等女学校の増加にみられるように大きく進展するなど、いろんな意味で今日の教育につながる要素が含まれており興味深い。

当然、こうした本ができるためには、明治・大正期のいろいろな資料が保存されていなければならないワケであるが、本書を見ると、まあよくぞここまで良好な状態で保存がされていたものだと感心させられる。中でも圧巻は、本書の著者の一人でもある油谷氏が館長を務める「秋乃宮博物館」をはじめとした膨大な「油谷コレクション」。マッチ箱や万博ポスターなど、当時のデザインがずらりと並んでいる様子は壮観そのものだ。

最後に、本書は、子供たちの写真も数多く載っているのだが、その表情が、どれもなかなか素晴らしい。どうしたわけか分からないが、今の子供ではなかなか見当たらないような、屈託なく同時に凛々しい、溌剌としつつ奥行きのある表情をした子供がたくさんいるのである。この表情を眺めているだけでも、今の教育や社会が、何か根本的なところで間違っているような気がしてならない。