自治体職員の読書ノート

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【1658冊目】平野仁彦・亀本洋・服部高宏『法哲学』

法哲学 (有斐閣アルマ)

法哲学 (有斐閣アルマ)

本書に書かれているようなことって、法学部を出た人はみんな学んでいるのだろうか。独学の私は、恥ずかしながらこないだ読んだ『キヨミズ准教授の法学入門』ではじめて、こういう「分野」があることを知った。

これまで勉強してきた「法律」は、まず条文があり、そして判例や解釈があった。だが考えてみれば、法律は、突然条文だけができるものではない。当たり前の話だが、そこには前提として一定の「価値観」や「理念」があるはずであるし、また一方では「そもそも法とは何か」という問題があって、両方が交錯することではじめて、具体的な一連の条文という法の実体が現われるはずなのだ。

法を適用し執行する「行政」や、裁判という場で法を解釈し適用する「司法」の場でも、本来は法哲学的なものの考え方や認識は必要なはずだが、実際に個々の法律のテキストを開いてみても、本書に書かれているような突っ込んだ説明はなかなか得られない。いや、実際には個々の条文の説明の背後には法哲学的な要素が潜んでいるはずなのだが、それをそれとしてはっきり意識することはなかなか難しい。

本書はそうした要素を現実の法運用や立法活動の中から可視化するための一冊だ。私としては、今まで見えていなかった法律というモノの「舞台裏」というか、根っこの部分を取り出して、目の前に置いてもらった気分だった。

本書は共著でもあるし、著者自身の主張というより法哲学という分野全体を浅く広く(といっても、部分的にはかなり深く)記述したものなので、その内容をピックアップして解説することは難しい。たぶん大学での講義に使用するテキストのような想定で書かれているのだろう。

もっとも、単独で読んでも個々のテーマはかなり分かりやすく書かれているし、コラムや用語解説、参考文献も充実している。今回は全体を知るためざっと通読しただけだったが、時間をかけてしっかり読み込めば、おそらく本書だけで法哲学の基本的な部分はマスターできるのではないだろうか。

本書を読んで全体として感じたのは、これも考えてみれば当然なのだが、法は法として単独で存在しているワケではない、ということだ。その背後には、権利、自由、平等といった近代思想の膨大な蓄積があり、市民革命や独立戦争の歴史が折り畳まれているし、さらに経済学、生命科学、情報通信技術などとも、法はもはや無関係ではいられない。

そのことは、今話題の「特定秘密保護法」にしても同じだろう。あの法律だって、国際情勢やら表現の自由やら権力分立やら、いろんな要素が絡み合っている。特にこの手の法律は、行政の恣意やら権力の濫用やら言論弾圧やらファシズムやらといった、法をめぐる暗黒の歴史が折り畳まれているのだからなおさらだ。

法律って、なんだか冷たく孤高を気取っているようにも見えるが、実はそれ以外のいろいろな分野と密接につながりあっているのだ。むしろそうした社会全体、世界全体のうちの一断面を切り取り、規範としての側面をフリーズドライしたのが、法律というものなのかもしれない。

そして、考えてみれば、こうした思考法は、いわゆる「法曹」よりも、むしろ条例をつくる立場である自治体にとって重要なのではないか。地域の重要課題を「法」という形式に落とし込むにあたって、法そのものの本源的な理解は欠かせない。実際に条例制定の現場でロールズアリストテレスまで思いを致すのは難しいかもしれないが、少なくとも自分たちのつくっている条例の「根っこ」はそこまで伸びていくのだ、という確信のようなものは、あったほうが良いように思われる。

キヨミズ准教授の法学入門 (星海社新書)