自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1652冊目】早川征一郎・松尾孝一『国・地方自治体の非正規職員』

国・地方自治体の非正規職員

国・地方自治体の非正規職員

この間に続き「非正規公務員」関係の一冊。前回読んだ上林氏の本は、著者の主張や思いがかなり前面に出ていたが、本書はどちらかというと研究書系。さまざまな調査結果を積み上げることで、非正規公務員(本書では「非正規職員)の実情を明らかにしている。国の非正規職員についても詳細なデータが載っており、国と地方の対比もできるようになっている。

特に興味をもって読んだのが、公務員の定員政策にからめて非正規職員の戦後史をまとめた第1章。中でも、1957年から62年にかけて行われた非常勤職員の「定員化措置」は象徴的だ。

国の制度で言えば、1949年の定員法施行以降、国家公務員の厳しい定員抑制が行われた裏側で、短時間勤務のみならず、常勤的非常勤職員が大量に生み出された(なんだか現代とよく似ている。特に「常勤的」非常勤職員がこの頃から存在していたのには驚いた)。その結果、本書によれば1955年の時点で、国における非常勤職員数は約67万人に達していたという。これはなんと、一般職の常勤国家公務員数である約65万人とほぼ同数だった。

こうした状況下、1957年から順次、非常勤職員を「定数化」することとなった。つまり定数増を容認し、その中に非常勤職員からの移行組を含めたのだ。地方についてもそうした措置を取るよう当時の自治庁が通達を発した。その内容は、今読むとなかなかシュールだ。以下、本書から孫引きする。

「1 恒久的と考えられる職務に従事する職員を、雇用期間を限って雇用する臨時職員では妥当性を欠くものであるから、これらの仕事については臨時職員の採用を行わないこと。
2 現に雇用されている臨時職員については、配置の合理化を図ることにより、安易な再雇用又は雇用期間の延伸を極力避けるとともに、できる限りすみやかに、順次定数内職員に切替え、計画的かつ、漸進的にその数を減少させること。(以下略)」

まったくおっしゃるとおり。正論である。ところが、この時の定員化をもってこの問題は解決したということにしてしまったのか、その後の国の動きは、むしろ常勤化の阻止の方に向かってしまった。なんと当時(1961年)の閣議決定で、国は非常勤職員の任用予定期間を1会計年度以内とし、しかも継続任用をしてはならないとしたのだった(もっとも「任用中断期間」を設けることで、国・地方とも事実上の継続任用を続けていた)。

それにしても、非正規公務員をめぐる現状は、戦後間もない当時となんと似通っていることか。いや、「定数化」に踏み切っただけ、当時のほうがまだマシというべきかもしれない。だいたい今も昔も、そもそも定数とは業務量に応じて定められるべきであるのに、財政上の要請から定数を削減し、その分を「定数外」の低賃金雇用でまかなうという発想が、実に姑息である。そのしわ寄せが当の非常勤職員に行くことくらい、わかりきっていることなのに。

当時はその矛盾を「定数化」によって解消したわけだが、そうもいかない現代では、事態がここまで進んでしまうと、それぞれの自治体が方向転換することも容易ではない。民間の派遣社員と一緒で、自治体の財政や人事当局はすでに「禁断の蜜の味」を知ってしまったのだ。

ここから状況を変えていくには、どうすればよいのか。本書はいくつかの提言を行っているが、労働組合を組織、加入し、その力を利用するという方法がやはりスタンダードだろう。ところがここで、またもや残念な結果が書かれている。自治労の調査によると、自治体の臨時・非常勤職員のうち組合(自治労系)組織率ははなんと5%台だというのだ。いくらなんでも低すぎる。ちなみに正規職員の組織率は71.9%。

だから、問題解決を本気で目指すのなら、まずは非正規職員を組合に取り込む(というと言葉は悪いが)ところから始めなければならない……のだが、さあ、果してそんなに簡単にいくだろうか。

おそらく非常勤職員の中には、パート程度の賃金でいいから扶養の範囲内でちょっと仕事をしたい、という方から、フルタイムの正規職員よりはるかに業務に精通していたり、シフト表の作成など管理的業務まで行っている方まで存在する。その幅は、同じような勤務時間・勤務条件と頻繁な異動で「均されている」正規職員よりはるかに広い。その多様性を「運動」としてまとめあげていくには、よほどの力量が必要になるのではなかろうか。

どうも、非常勤職員の待遇改善のネックはこのあたりにあるような気がする。財政当局自ら人件費が増える方向に意識転換をすることは、慢性的な財政難もあってなかなか難しい。マスコミはむしろ公務員バッシング、人員削減を呼びかける方に忙しい。裁判にしても、はかばかしい判決がなかなか出ないのは周知のとおりだ。だからここは、労働者自らがその権利を勝ち取るという労働組合の理念に立ち戻るしかないのだが……。

とはいえ、荒川区のように(本書では一貫して「A区」とのみ表記)、区職員労働組合の改善要求から、職層に応じた昇給が実現した例もある。本気で何とかしたいのなら、突破口がないわけじゃないのである。あとは闘うか、闘わないか。応えるか、応えないか。そこが問題だ。