【1597冊目】木村草太『憲法の創造力』
- 作者: 木村草太
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2013/04/06
- メディア: 新書
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気鋭の法学者による「現代風」憲法論。君が代斉唱、一票の格差問題、裁判員制度、政教分離、生存権保障、公務員の政治的行為、憲法9条の7トピックについて議論を展開する。
重要判例から「論点」を抽出するという、いわゆる従来型の憲法論から離れたところで、著者独自の視点から考察を深めるというスタンスで書かれている。主に判例批判が中心で、憲法自体の是非を問うものではないので、オビにあるような改憲論議への応用はあまりできそうにないが、「今ある憲法」がどのようなものかを知るための糸口にはなりそうだ。
そもそも最近の出版界は「憲法ブーム」だという。改憲が現実味を帯びてくる中で、そもそも憲法ってどんなものなのか、初めて興味をもったということなのだろうが、そうでもないと自分の国の憲法についてロクに知らないで済むこと自体が、まあ平和というかなんというか。
そんな中で、本書は憲法自体について知るための本と言うワケではない。憲法の条文自体、数えるほどしか出てこないし、重要判例も本書のトピックに必要な限度で出てくる程度。一方で憲法論としては、目の付けどころは面白いが決して深いところまで論じてはおらず、あくまで議論の「とっかかり」レベルだが、憲法が「生きている」ものであって、現実の問題にじゅうぶん適用可能であるということを知ることができるのは大きい。
決まり切った「論点」を学ぶだけが憲法の学習ではない、と知ることができるという意味では、本書は学部生向けの一冊というべきか。参考文献の紹介も充実しており、法学部生に憲法に関心をもってもらうための入口として、本書はオススメできそうだ。
おっ、と思える指摘もいくつかあった。君が代斉唱の強制を「パワハラ」と位置づけたり、裁判員制度に関する判例や関係者の議論に「意に反する苦役からの自由」への鈍感さを見たり、国家権力の側から見ると日本的多神教は非常に利用しやすい宗教であると指摘したり。もはや憲法論を超えて別の議論になっている感じもしなくもないが、憲法はそこまで射程の広いものである、ということなのかもしれない。