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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1593冊目】レイ・ブラッドベリ『お菓子の髑髏』

謎・恐怖・幻想

お菓子の髑髏―ブラッドベリ初期ミステリ短篇集 (ちくま文庫)

お菓子の髑髏―ブラッドベリ初期ミステリ短篇集 (ちくま文庫)

ブラッドベリといえば幻想譚とSFだが、本書はブラッドベリ初期の「ミステリ」作品を集めた一冊。ちなみに、以前刊行された『悪夢のカーニバル』という短編集をお持ちの方は、ほとんど同じ内容のようなのでご注意を。

さて、読む前の印象としては、ブラッドベリがミステリ、というのは、悪いけどあんまり似合わない組み合わせなんじゃないか、と思っていた。ブラッドベリの真骨頂はなんといっても感性のひらめきを紡いでいくような不思議で魅惑的な世界観。論理整合性が重んじられるミステリの世界とはあまり相性がよくなさそうに感じたのだ。だいたい、謎に答えを与えるのがミステリだが、ブラッドベリのいいところは、謎に答えが用意されていないところにあるんじゃなかろうか。

もっとも、初期のブラッドベリは、生活をかけていろんな雑誌にいろんな小説を書きまくる、なんでもありの大衆作家だった。ブラッドベリ自身が自身の方向性を模索していた、というのもあるのだろう。多作と乱作のなかからホンモノの作家が生まれてくる、そういう時代だった。

その意味で、本書は「ブラッドベリができるまで」を砂かぶりで眺められる絶好の作品集であると言えるのかもしれない。実際、本書には正統派に近いロジカルでトリッキーなミステリから、ハードボイルド風味のもの、後年のブラッドベリを思わせる幻想味豊かなものやホラー・テイストのものまで、ミステリといってもかなり幅広いテイストの作品が収められている。

とはいえ、本書に収められた15篇からオススメを挙げるなら、やはり怪奇・幻想系だろう。赤ちゃんが親を殺そうとする「幼い刺客」なんて、その後に似たような小説やホラー映画がいろいろ出たが、語り口の巧みさはさすがブラッドベリ、といったところ。サーカスを舞台にシャム双生児の片割れが殺され、もう一方が探偵役になる「屍体カーニバル」も、後のブラッドベリを思わせる「いかにも」の作品だ。

だがイチオシは、ブラッドベリ自身も気に入っているという「トランク・レディ」。なんといっても主人公の男の子の心理描写が絶妙なのだ。

屋根裏部屋のトランクの中に若い女性の死体を発見する男の子がパーティ中の両親にそれを報告しに行くのだが、全然聞く耳を持ってもらえない、というのがいい。そこにいわくありげな祖母だの叔父だのが絡んでくるのもワクワクするし、しびれを切らしてパーティ会場に死体を投げ落としたところ、いつの間にかマネキン人形にすり替えられていた、というのも巧みである。

どの作品も、B級感ぷんぷん、いかにも安手の紙に粗悪なインキで印刷されたパルプ・マガジンの雰囲気が漂っている。後年の洗練された幻想譚とはだいぶ趣が違うけれども、しかしここから、あのブラッドベリも始まったのだ。

そう考えると、似合わない服を無理に着ているような探偵モノやハードボイルドも、それはそれで楽しみようがあるというものだ。ただし、ブラッドベリのハードボイルドは、案外面白かったことも付け加えておく。