自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1583冊目】町山智浩『教科書に載ってないUSA語録』

教科書に載ってないUSA語録

教科書に載ってないUSA語録

週刊文春の連載コラム「言霊USA」の書籍化。ハヤリ言葉や造語からアメリカの世相を読み解いていく一冊だ。

それにしても、町山氏のコラムを読むたびに、アメリカってのはとんでもない国だと思わせられる。もちろん、わが日本も含めて、どの国もそれなりに、外からは理不尽だったりクレイジーに見える現象はあると思うのだが、とはいえさすがに「超大国」アメリカ、その「トンデモ度」も度外れている。

政治ネタが多く、特にやり玉に挙げられているのが共和党のトンデモ政治家(なかでもサラ・ペイリンの突出度はスゴイ。わが国でいえば橋下徹石原慎太郎を足して2を掛けたくらいのスケールでぶっとんでいる)、トンデモ政治思想だ。

公的医療保険制度を導入しようとするオバマを「保険会社の自由競争を邪魔する」「豊かな者が払った税金を貧しい者のために使うなんて社会主義だ」と攻撃し、圧倒的な格差を是正しようと富裕層への増税を打ち出すと「これは階級闘争だ!」とマルクス主義の言葉を持ち出す。

挙げ句の果てに「オバマはアメリカで生まれていない! 出生証明書を見せろ!」と言いだす「バーサーズ」と呼ばれる人々まで登場。オバマイスラム教徒であると信じる人は国民の24%、しかも共和党支持者の52%は「大統領はイスラム原理主義を世界に広めようとしている」と考えているとか。もうムチャクチャである。

なんでこんなことが起きるかというと、やはり「黒人の大統領」を受け入れられない連中が相当数いるということなのだろう。だいたいこの国は、つい数十年前までバスやレストランの席が公然と白人用・黒人用で分けられていた国なのだ。わが国も大久保通りでヘイトスピーチをぶちあげる連中が出て来たが、やっと日本も「アメリカ並み」になったということなのかもしれない。

もちろん本書には政治ネタだけではなく、スポーツから三面記事ネタ、エッチなネタまでいろいろ詰まっており、どこを開いても強烈なカルチャーショックを受けること請け合いだ。日本に入ってきているアメリカ文化なんて、ほんの上澄みにすぎないことが良く分かる。

そして、本書はタイトル通り、ハヤリ言葉の語録としても楽しめる。「友達ぶった敵」という意味の"Frenemy"(相手を支配し、共依存関係になってしまう「友人」関係)、ネットで必要以上に私生活を公開する"Overshare"、「ダサ可愛い」という意味の"Adorkable"なんて、日本でも流行りそうだ。

やっぱりアメリカ、といったものも多い。例えば"Open Carry"とは、むき出しの拳銃を携行すること。"School Lockdown"は「学校閉鎖」(インフルエンザとかで休みになるのではなく、銃を持った家出少年が徘徊しているなど危険が見込まれる時に学校が休みになることらしい。コロンバイン乱射事件を「教訓」に導入されたらしい)なんかは「いかにも」だ。

銃社会ならでは、ということなのだろうが、う〜ん、かの国では銃規制はやっぱりどうにもならんのだろうか。なにしろアメリカには、500以上の民兵団(Militia)があり、重火器で武装して毎週末には戦闘訓練をしているというのである。

「笑えるが、笑えない」アメリカのリアル満載の一冊。澤井健氏による絶妙の爆笑イラストとの息もぴったり。まあ、日本ばかりが「ヘンな国」じゃないことが分かるだけでも、ちょっと元気は出るかもしれない。