自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1572冊目】いせひでこ『チェロの木』

チェロの木

チェロの木

音が聴こえてくる絵本。

一本の木から、チェロが生まれる。そのチェロが美しい音を奏でる。ということは、一本の木の中に、その音はすでにあったのだろうか。

木は森の中に生えている。森には音が満ちている。ヤマバトの「ぐぜり」。川のせせらぎ。その音がチェロに宿り、楽器の響きとなる。

楽器職人の父が届けたチェロを弾いたパブロさん(カザルス?)は、言う。「まったかいがあった。森が語りかけてくるようだ」

100年かけて育った木が切られ、丹念に仕上げられて楽器になる。父は子のために楽器をつくる。子は大きくなって、子どもたちに楽器を教える。

音には「時」が込められているんだ。

とにかく絵が素晴らしい。止まっているはずのに、空気の粒や、吹き抜ける風や、あたたかく響くチェロの音が感じられる。なかでも文字のない見開きのページが、圧巻。ページを開けた瞬間、一気に吸い込まれる。

読み終わったあと、むしょうに森の空気を吸いたくなった。鳥の声や風の音に、音楽を感じたくなった。これは、そういう絵本なのだ。

子供から大人まで、一家に一冊。まさにこの絵本こそ「親から子へ」伝えたい一冊だ。