読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1567冊目】ナタリー・ゴールドバーグ『魂の文章術』

魂の文章術―書くことから始めよう

魂の文章術―書くことから始めよう

アメリカでは、1986年に刊行され、20年以上売れ続けた文章術のロングセラー。単なる「うまい文章」「読みやすい文章」とは一味違う、書くことから人生の本質に斬り込む一冊だ。

著者は文章修業の基本として、次の6つを挙げている(p.13〜14)。これを見ただけでも、フツーの文章術ではないことがわかる。

1 手を動かしつづける。
2 書いたものを消さない。
3 綴り、句読点、文法などを気にしない。
4 コントロールをゆるめる。
5 考えない。論理的にならない。
6 急所を攻める。


もちろん、普段の文章をこれで書け、ということではない(それじゃメチャクチャになってしまう)。あくまでこれは「修行法」なのだが、ではなぜこういう方法を採ることを著者はすすめるのか。それは著者が、文章を書くことによって「自分の感覚や書いている対象との直接的なつながりを保つ」(p.102)ことを重視しているからだ。

これを著者は「第一の思考」と呼ぶ。これは直感的で「心が何かに接してパッとひらめくときに現われるもの」のことだ。

ちなみにこれに対して、第二の思考は「思考の領域」、第三の思考は「思考についての思考の領域」を言う。これは要するに、「理性」や「常識」、「礼儀」といった「内なる検察官」のこと。この連中が、第一の思考が生まれた瞬間に、それを押しつぶしてしまうのだ。著者にとって書くこととは、この「第一の思考」の存在に気付き、すくいあげるためのメソッドであるらしい。

著者はなんと、アメリカで日本人の老師について禅を学んでいる仏教徒であるという。だから著者の文章術には、禅における座禅や瞑想、あるいは公案を通した高速思考が大きな影響を与えている。論理以前、理性以前の「第一の思考」に至るという点で、文章術と禅はシンクロしているのだ。

こんな「変わった」文章術がアメリカで20年以上もロングセラーになっていたというのは、考えてみるとおもしろい。ビジネス文書の書き方としてはまったく使えないが、プロの「物書き」になろうという人にとっては、かなりいろんなヒントがつまった一冊だと思う。

そして、いわゆる「ブロガー」にとっても、本書はヒントの宝庫である。私のように面白くもない読書記録をつけ続けている人間は別として、面白くて人を惹きつけるブログを書きたいと思っている人なら、本書はかなり参考になるはずだ。試みに、私が特に大きなヒントをもらった部分を、いくつか引用してみたい。なおカッコ内は私の感想。


「なんであれ、心に無理強いしてはいけない。邪魔にならないよう一歩退いて、内側から湧いてくる思考を書きとめるだけでいい」(p.54)

「彼が書けなかったのは、あらかじめ書くことを決めて紙に向かったからだ。もちろん、机に向かったときに自分が何を言いたいかわかっていてもかまわない。ただしその場合は、その表現が自分の内部と紙の上に自然に生まれ出るようにしなければならない」(p.55)

(これは私が「読書ノート」でやっていることだ。どんな内容になるかは、書きだしてみないと分からない。書くことではじめて「ああ、そういうことだったのか」と本の内容が腑に落ちることなど、ざらにある)


「書くことに集中しているなら、それはけっこうだが、ただし集中はつねに、世界を閉め出すことによってではなく、世界の存在をすべて許すことによって行なわなければならない」(p.108)


(これはいかにも仏教的。縁起と空ですな)


「何かを書こうとする前に動物になろう…(略)…動作をゆっくりさせ、自分が書こうとしている素材、つまり獲物に忍び寄るのだ。五感のすべてを研ぎ澄まそう。論理的思考回路のスイッチを切り、思考を捨て、頭を空っぽにしよう。おなかから言葉を出そう。頭をおなかまで引き降ろし、思考を消化しよう。消化された思考が栄養となって全身に行き渡るようにするのだ」(p.123)


(たぶんここが本書の「奥義」にあたる部分だろう)


「力強いものが出てくるのは、たいてい書き終わったと思った地点の先からだ」(p.152)


(これも至言。書く時はすべてを絞りつくさなければいけない)


「自分の作品を読み返すときにはサムライになろう。それは、存在感のない部分を切り捨てる勇気を持った戦士だ」(p.236〜237)


(校正においても、あくまで主役は「第一の思考」なのだ。エゴや理性はおよびではない)


「物を書くときには、どこにいようと今いるこの場所を起点にすべきだ。いるべき場所に今いられないことを、書かないことの言い訳にしてはいけない」(p.246)


(これも「書き手」になりたい人が陥りやすい罠である。用心、用心)


まあ、こんな感じである。さっきも書いたように、仕事に役立つ文章術を求める人は肩すかしを食らうだろう。だが「ホンモノの文章」を書きたい人には、本書は宝の山だ。20年間売れ続けたのもうなずける。