自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1552冊目】ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ、辻信一『いよいよローカルの時代』

いよいよローカルの時代―ヘレナさんの「幸せの経済学」 (ゆっくりノートブック)

いよいよローカルの時代―ヘレナさんの「幸せの経済学」 (ゆっくりノートブック)

まず立ち位置から言っておくと、このお二人は「エコの人」である。

ヘレナ氏はスウェーデン言語学者だが、「エコ界」ではオピニオンリーダー的存在らしい。インド北部のラダックを紹介した『ラダック 懐かしい未来』(amazonで今調べたら『懐かしい未来 ラダックから学ぶ』になっていた)が世界30カ国以上で翻訳された。それにしても、この「懐かしい未来」って言葉、良いですね。

一方、インタビュアー役を務める辻氏も、文化人類学者であると同時に環境運動家をなさっている。二人のスタンスは非常に似通っていて、だから本書はお互いがぶつかり合うというよりも、同じ方向を向いてまったりしゃべっているような雰囲気の一冊になっている。

正直なところ、本書を読む前はこのお二人のことは全然知らなかった。「ローカル」というコトバに惹かれて読んだだけで、まさか「エコの人」のインタビュー対談だとは思わなかった。

さて、本書は環境保護運動ローカリズムを結びつけ、反グローバリズムの立場から論じた一冊である。

60年代あたりからはじまった従来型の環境保護運動は、当初から国家や大企業を攻撃対象とし、どちらかというとローカリズムのほうを向いていた。ところが、90年代に転換期が訪れた。環境運動とグローバル企業のビッグ・ビジネスが結びつき、ビジネスと環境保護の両立といった美辞麗句がいろんなところに見られるようにさえなったのだ。

エコは今や、医療や福祉と並ぶ経済の牽引役としてさえ期待されている。「環境問題の解決のためには、小さなビジネスよりも大きなビジネスのほうがより効果的に変化を生みだすことができる」(p.68)という考え方が世の中を席巻し、著者(ヘレン)のような、ローカリズム環境保護運動を一体のものとして捉えていく昔ながらのエコロジストのあり方は、その片隅に追いやられていった。

だが、こうした大企業の環境保護運動への参加について、著者は徹底して懐疑的だ。そもそもグローバリズムというシステムそのものが、環境の保護よりも破壊をもたらす要素をたっぷり含んでいる。

例えば、A国はB国に小麦を輸出し、同時にB国から小麦を輸入している。そのコストには輸送費が上乗せされる。地域での消費なら多品種少量生産が良いが、地球の裏側まで農産物を運ぶとなると、同一品種を揃えて大量出荷できるようにしておくほうが望ましい。

だが、そのことが地域の食糧供給を脆弱にすることは周知のとおり。トウモロコシばかりを育てている農家は、気候やウイルスなどの関係でトウモロコシが育たなければ大損害を受ける。だが、何十種類もの農産物を育てていれば、そうしたリスクは農産物の種類のぶんだけ低減される。しかも輸送費もかからない。

そこで著者が提唱するのが「ローカルフード運動」。地球の裏側から野菜を空輸してくるのではなく、地域の住民の食事は地域でまかなうということだ。そういえば日本でも昔から「四里四方」といい「身土不二」というが、そういうことなんですね。

他にも本書にはいろんな提案がなされており、なるほどと思わされるものも多い。「エコの人」特有の態度はやっぱり多少鼻につくが、語られている内容には一本スジが通っている。賛同できない点もあるが(例えばマイクロクレジットへの見方)、学ぶべき視点も多い、といったところか。ちなみに私にとっては、あまり意識したことのなかった「ローカリズム」と「エコロジー」のつながりが、本書を読むことで多少なりとも見えてきたのは収穫だった。

懐かしい未来 ラダックから学ぶ