自治体職員の読書ノート

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【1551冊目】辻村深月『凍りのくじら』

凍りのくじら (講談社文庫)

凍りのくじら (講談社文庫)

名前は知っていたが、この人の小説は初めて読んだ。自分でもなぜだか分からないが、出張前にふらりと立ち寄った本屋で、ふと食指が動いた。本の「厚み」が、これから乗る電車の旅程にぴったりだった、ということもある。

第1章のタイトルは「どこでもドア」。第2章が「カワイソメダル」、第3章が「もしもボックス」、そして「いやなことヒューズ」「先取り約束機」「ムード盛り上げ楽団」「ツーカー錠」「タイムカプセル」「どくさいスイッチ」「四次元ポケット」と続く。わかりますよね。ご存知、ドラえもんひみつ道具である。ちなみに私は「カワイソメダル」「いやなことヒューズ」は知らなかったなあ。

主人公の理帆子は、失踪した父の影響で藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、特にドラえもんが大好きな少女である。章のタイトルだけでなく、内容もドラえもんネタをうまく絡めていて、それがとてもいい効果を出している。だいたい、読んでいて思ったのだが、ドラえもんって、なんだかとっても懐かしいんだよね。

調べていないので分からないが、たぶん著者自身もドラえもんが大好きで、ドラえもんで育った世代なのだろう。そうでなければ、こんなふうに藤子・F・不二雄「先生」をここまでリスペクトし、ドラえもんのお話をここまで巧く物語に取り込むことはできないはずだ。そして、ドラえもんを取り込んだ時点で、本書は問答無用で私のような「ドラえもん世代」の琴線に触れる作品になってしまった。う〜ん、なんだかずるいぞ。

そしてもうひとつ、小説自体のタイトル『凍りのくじら』の意味がポイントだ。氷漬けの海に閉じ込められ、どこにも行けなくなってしまった3頭のクジラの痛切なイメージ。

これって、主人公の理帆子や、その元彼の若尾そのものだ。周囲を無自覚に見下し、それでいて自分はどこにも行けず、自分で自分をどんどん追い詰めていく。その「イタさ」が、読んでいて辛い。特に、ストーカー化する若尾がすごくグロテスクに描かれているが、理帆子もまたその似姿であることに気付いた瞬間、ぞわりと背筋が寒くなる。

そして、本書にはある「仕掛け」が施されている。その仕掛けが明らかになることで、いろんな「謎」がするりと解けるようになっている。とはいえ、実はここのところは、読んでいてあまり釈然としなかった。というのも、読んでいる途中で郁也という少年をめぐる人間関係(特に郁也と別所の関係)が良く分からなくなって、なんだかもやもやした気持ちで最後まで読んだのだが、それがこういう「仕掛け」のためだったと分かった瞬間、なんだかガッカリしてしまったのだ。

これはあまりうまくない。願わくば、それなりに納得できる「仮の説明」を置いておいたうえで、それを丸ごとひっくり返してほしかった。まあ、未読の方は何のことか分からないと思うが、これ以上書くとネタバレになってしまうので、このへんで。

それにしても「ドラえもん」をもう一度読み直したくなった。昔買ったコミックス、今はどこにあるかなあ……。

ドラえもん (1) (てんとう虫コミックス)