自治体職員の読書ノート

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【1550冊目】狩野博幸『もっと知りたい河鍋暁斎』

東京美術の「もっと知りたい」シリーズに、河鍋暁斎が登場した。

奇想系の画家として、前からなんとなく気になっていたが、作品をここまでまとめて見たのは初めてだ。びっくりしたのはその幅の広さ。幽霊画に動物画、美人画に武者絵、春画に戯画。注文に応じて、どんな画題でも描きあげた。それも、単に器用というだけではない。注文に応じつつ、常にそれを超える趣向や深みを用意した。だからこれだけの多様なタイプの絵画が、後世に残っているのだ。

今にも動きだしそうな、という表現はいかにも陳腐だが、それでも暁斎の画を見ていると、そうとしか表現しようのない何かがある。幽霊画(これはメチャメチャ怖い)の幽霊たちはこちらに漂い出てきそうだし、鳥獣戯画を「本歌取り」した作品では、動物や昆虫たちが今にも躍り出しそうだ。圧巻は、巨大な魚の背に乗った観音様が波に乗って躍動する「波乗り観音図屏風」。ダイナミックな波の動き、その中を泳ぐ魚の「動」と、背に乗った観音の「静」の、なんというみごとなコントラスト。

ユーモラスな画も多い。日本のユーモア感覚を濃縮したような作品が次々にあらわれる。特に表情が良い。呑気な表情の化猫、情けない表情で花魁に背を貸す閻魔様、毛抜きで白髪を抜かれる奪衣婆のしかめっつら。蛙の合戦を描いた「風流蛙大合戦之図」では、一匹一匹の蛙の表情がみごとに描き分けられている。

暁斎は、江戸から明治にかけて生きた画家である。幼くして歌川国芳に、その後は狩野派に学び、江戸の画風を明治に伝えた。かのジョサイア・コンドル暁斎に弟子入りし「暁英」という号を得たという。暁斎の作品には、江戸のセンス、江戸の華が、先ほども書いた絶品のユーモア感覚と共に息づいている。

いずれにしても、暁斎の絵は尋常ではない。面白くてとっつきやすい作品が多いが、その奥に込められた技術とセンスは並はずれている。ちなみに本書は狩野氏による解説と人物紹介が各ページに載っているが、これはちょっと著者自身の見方が前面に出過ぎていてうるさく、これではかえって鑑賞のさまたげであろう。だいたい、これほどの明瞭で強烈な絵に、果してもっともらしい解説など必要だろうか。