自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1537冊目】 高野和明『ジェノサイド』

ジェノサイド

ジェノサイド

著者の小説は乱歩賞を受賞した『13階段』以来。『13階段』は、新人とは思えないなかなかの力作だったのだが、なぜかその後、この著者はフォローしていなかった。したがって高野和明を読むのは、本書が2冊目ということになる。

筋書きは省く。ネタバレにならない範囲で書いてもあまり意味のあるものにはなりそうにないし、バラしてしまっては未読の方に申し訳ない(と言いつつ、後の方でちょっとだけバラすつもりだが)。とりあえずは、読後の印象だけをカンタンに書き留めておく。

デビュー作の『13階段』は、死刑制度と冤罪という超ヘビーなテーマをエンタメに昇華した傑作だった。重いテーマをしっかり俎上に載せながら骨太のストーリー展開を絡めていくという手法は、本書にも共通する。本書の場合、テーマになっているのは「ジェノサイド」つまり虐殺であり、戦争であり、人間のもつ残虐性だ。

本書にはかなり過酷なシーンが続出する。村人への虐殺シーンや少年兵の突撃シーンなどは、読みながら吐き気を感じるほどのリアリティがある。

ストーリー展開はさすがに巧い。謎に謎を重ね、スリリングな展開で一気に読ませる。傭兵部隊のアフリカと大学院生の日本というコントラストも鮮やかで、切り替えのタイミングも絶妙だ。読んでいて思い出したのはマイケル・クライトン。物語のリズムを落とさないまま、そこに科学のウンチクをぎっしり詰め込んでいるあたりなど、特にクライトンっぽい。

一方、気になった点もいくつか。海千山千の傭兵であるはずのイエーガーらが、あまりに正義感が強くピュアに思えてしまったのはなぜだろうか。著者の正義感があまりにもそのまま投影され過ぎているような気がしてならない。

それに、この手のエンタメで「人間が描けていない」は禁句なのかもしれないが、どの人物もいかにも皮相的で、薄い。悪い奴はどこまでも悪く、下劣な奴はどこまでも下劣で、いい奴はどこまでもいい奴なのだ。このへんも考えてみればクライトンっぽいかな。悪い意味で。

で、読んでいる途中はクライトンだったが、読み終わって思ったのは、これってアーサー・C・クラークの『幼年期の終り』だよね? ということ。もちろん設定は全然違うが、テーマ的には相通じるものがある。もっとも、人類を超える知性を人類が描けるかどうか……という永遠の難題がそこにはあるのだが、読む側も人類なのでそこはあまり気にしないほうがいいのだろう。……あれ? 結局ネタバレになっちゃったかな?

まあ、いいでしょう。いずれにせよエンタメとしての完成度はそれなりのもので、著者の正義感がいささか鼻につくのは気になるが(世の中のいろんなことに憤激されているのは分かるけど、もう少し小説世界にそれを溶け込ませていただけるとありがたい)、それを割り引いても日本人離れしたスケールの力作であることには変わりない。

13階段 (講談社文庫) 幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)