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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1532冊目】ジョー・ヒル『ホーンズ 角』

謎・恐怖・幻想

ホーンズ 角 (小学館文庫)

ホーンズ 角 (小学館文庫)

こないだ読んだ『20世紀の幽霊たち』が素晴らしかったジョー・ヒルの長編。タイトルはいささかぱっとしないが、中身は超濃密。神と悪魔、光と闇、善と悪、罪と罰、愛と憎しみが、スリリングなストーリーの中に縦横に埋め込まれ、一度読み始めたらやめられない。

主人公の青年イグは、ある朝起きると、頭に角が生えている。なんだかカフカの「変身」じみた冒頭だが、そう感じさせるのは最初だけ。イグの変化は角だけにとどまらない。イグを見ると、誰もが自分の心に秘めた欲望を語りだす。しかも、相手に触れることですべての記憶を瞬時に読み取る能力(つまり「サイコメトリー」ってやつですな)まで身に付けているのだ。

この能力はまさに悪魔の能力。それはイグ自身にとっても同じことだ。なにしろ友人や両親、やさしかった祖母までがイグを見ると、思いもよらない罵詈雑言を吐き散らし、触ってしまえば知りたくもないような記憶を次々に見せられるのだから。イグはどんどん悪魔そのもののようになっていくが、それは悪魔にならざるをえなかったということなのかもしれない。

このイグ、実は「角が生える」以前、恋人のメリンがレイプされて殺害されるという悲劇を背負っている。しかもイグはその有力容疑者で、警察からは容疑不十分で釈放されたものの、周囲の人は薄々イグが犯人ではないかと疑っているのだ。ではこの物語はイグの犯人探しのお話かといえば、そう単純ではない。むしろ犯人などは第一部のラストでわかってしまうのだ。第二部からは、物語はイグとメリンの出会いにさかのぼり、過去と現在を行ったり来たりしつつ、とんでもない「真相」へと突入していく……

ロマンスあり、バイオレンスあり、サスペンスありと、とにかくエンターテインメント要素てんこ盛りの中を、猛スピードで駆け抜けていくジェットコースター。本書の読後感を一言でいえば、そんな感じ。特にラスト近く、胸が締め付けられるようなメリンの手紙と、それに続く壮絶なラストシーンには、もう言葉も出ません。

タイトルが地味目でだいぶ損している感はあるが、いやいや、これはとんでもない小説。モダンホラーの分類になど、到底おさまるものではない。「アンチキリスト」という、西欧の歴史を貫く一大テーマがあるが、ジョー・ヒルは、それを壮大で極上、しかも無類に面白い物語に編み上げてみせたのだ。う〜ん、この作家、ホンモノである。

20世紀の幽霊たち (小学館文庫) 変身 (新潮文庫)