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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1527冊目】藤原新也『メメント・モリ』

メメント・モリ

メメント・モリ

「ちょっとそこのあんた、顔がないですよ」

この写真集は、そんなドキッとする言葉から始まる。

死が見えなくなり、それに伴って生もまた見えなくなった。死を忘れた生は、ニセモノの生にすぎない。そんな生を送るわれわれは、顔をなくしてもおかしくない。

 死は生の水準器のようなもの。
 死は生のアリバイである。

本書に収められているインドの写真は、鮮烈を通り越して強烈だ。ぼろにくるまって死んでいる老人。ガンジス河のほとりで野焼きされる人間の遺体。ここでは「死」は平然と「生」と共にある。特に「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」というキャプションの写真は、圧倒的。初めて見た時は、これ一枚で一気に魂を持っていかれた。

そしてまた、本書後半の、自然の中に「生」を写し取る写真のなんと見事なことか。生とはこれほどの鮮やかさとエネルギーを持っているものなのか。「死」を忘れたわれわれの「生」は、これに比べるといかにくすんで見えることか。

どの写真にもキャプションがついている。写真を見て、キャプションを読み、そしてまた写真を見ると、まったく違った様相で写真が立ちあがってくる。二回見ると、また違って見える。私はこの一冊を何度繰り返し開いたか分からないが、その度に、同じはずの写真が違った貌をのぞかせる。

その度に思い出す。メメント・モリ、と。そして、その度に問い直す。今の私には、果して生きているニンゲンの顔がついているだろうか、と。